はじめに

不動産賃貸借契約とは、不動産の賃貸人(貸主)が賃借人(借主)に対して一定の期間不動産を貸し、賃借人がこれに対して賃料を支払うことを内容とする契約です。
不動産賃貸借契約では、借地借家法や消費者契約法などの法令および裁判例によって、賃借人に対して強力な法的保護が図られているという特徴があります。
不動産賃貸借契約書のチェック・作成においては、このような特徴を踏まえながら、契約トラブルが発生しないようにリスク回避を図ることが大切です。

不動産賃貸借契約書のポイント

賃貸借の合意

不動産賃貸借契約は、対象となる不動産を、一定の期間貸して、賃料の支払が発生することを本質とする契約です。
そのため、不動産賃貸借契約書では、①対象となる不動産、②賃貸借の期間、③賃料について、必ず明記する必要があります。

(条項の例)
①目的物
名称:〇〇マンション
所在地:〇〇県〇〇市〇〇
室番号:〇階〇〇〇号室
②賃貸借期間
令和〇年〇月〇日~令和〇年〇月〇日
③賃料・共益費
賃料:月額〇万円
共益費:月額〇万円

敷金

不動産賃貸借契約では、敷金の授受を行うのが一般的です。
不動産賃貸借契約書にも、敷金に関する規定を設けることが必要です。
なお、敷金に関する問題として、不動産の所有者が変わる場合には、敷金も原則として新所有者に引き継がれます。
また、敷金は、不動産の明渡しのあとに、未納賃料や原状回復費用などを差し引いた金額を返還することとなりますが、どの範囲の原状回復費用を控除することができるのかという問題もあります。
この点については、後述させていただきます。

(条項の例)
(1)借主は、本契約から生じる債務の担保として、敷金〇万円を貸主に預け入れる。
(2)貸主は、本物件の明渡しがあったときは、遅滞なく、敷金の全額(無利息)を借主に返還する。ただし、貸主は、本物件の明渡時に、賃料の未納、第〇条の原状回復費用の未払その他本契約から生じる借主の債務の不履行がある場合には、敷金から差し引くことができる。
(3)借主は、本物件を明け渡すまでの間、敷金をもって賃料、共益費その他の債務と相殺することができない。

賃料

家賃の支払は、民法に従うと、当月分を当月末までに支払うこととなります。
しかし、不動産賃貸借契約の実態では、当月分を前月末日までに支払うこととするケースが大半です。
また、法律上、将来において経済情勢や賃料相場の変動などがある場合には、賃料の増減額請求が認められています。
不動産賃貸借契約書では、これらを踏まえたうえで、賃料に関する条項を定めるのが通常です。

(条項の例)
(1)借主は、当月分の賃料を、前月末日までに、貸主が指定する口座に振り込む方法により支払う。ただし、振込手数料は、借主の負担とする。
(2)1か月に満たない期間の賃料は、1か月を30日として日割り計算した額とする。
(3)次の各号のいずれかに該当する場合には、貸主・借主の協議のうえ、賃料を改定することができる。
①土地または建物に対する租税その他の負担の増減によって賃料が不相当となった場合
②土地または建物の価格の上昇または低下その他の経済情勢の変動によって賃料が不相当となった場合
③近隣同種の不動産の賃料に比較して賃料が不相当となった場合

使用目的

不動産賃貸借契約では、対象となる不動産の使用目的を限定する例が多く見られます。
特に貸主としては、資材置場として賃貸したつもりの土地に建物が建設されたり、居住用として賃貸したつもりのアパートが事務所や店舗として使用されたりすると、困るということもあると思います。
そのような場合には、賃貸借契約書の中に、使用目的に関する条項を設けるべきです。
また、特に居住用の建物の場合には、動物の飼育を禁止する条項を盛り込むことも検討するべきでしょう。

(条項の例)
借主は、本物件を居住の目的にのみ使用し、他の用途に供してはならない。

賃借権の無断譲渡・無断転貸の禁止

賃貸借の対象となる不動産について、第三者に賃借権が無断譲渡されたり、無断転貸されたりすると、貸主にとっては非常に迷惑なことです。
そこで、賃貸借契約書の中に、賃借権の無断譲渡・無断転貸の禁止を盛り込むのが通常です。

この点、民法の規定にも、貸主の承諾を得ない賃借権の譲渡・転貸の禁止と、これに違反した場合の契約解除権が定められています。
賃貸借契約書にも、確認的に賃借権の無断譲渡・無断転貸の禁止と違反の場合の解除権を定めるとともに、賃借権の譲渡・転貸をする場合には貸主の「書面による承諾」を要することとし、承諾の有無について不毛な争点とならないように配慮するべきです。

(条項の例)
(1)借主は、貸主の書面による承諾を得ることなく、本物件の全部または一部について、賃借権を譲渡し、または転貸してはならない。
(2)借主が前項の規定に違反した場合には、貸主は本契約を解除することができる。

無断増改築等の禁止

不動産賃貸借契約では、対象となる建物や土地上の建物について、無断増改築等を禁止するとの取り決めがなされることが多いです。
貸主の立場からすれば、許可なく増改築等が行われれば、非常に迷惑であると言えるでしょう。
そこで、不動産賃貸借契約書では、無断増改築等の禁止および違反した場合の解除権に関する条項を盛り込むべきです。

(条項の例)
(1)借主は、貸主の書面による承諾を得ることなく、本物件の増築、改築、移転、改造もしくは模様替えまたは本物件の敷地内における工作物の設置を行ってはならない。
(2)借主が前項の規定に違反した場合には、貸主は本契約を解除することができる。

解除

不動産賃貸借契約書では、借主に契約違反がある場合には、貸主が契約を解除することができる旨を定めるのが通常です。
不動産賃貸借契約の解除について注意しなければならないのは、借主に契約違反がある場合でも、貸主が直ちに契約を解除できるとは限らないことです。

法的には、貸主が不動産賃貸借契約を解除するためには、借主に契約違反があることだけでは足りず、契約違反の事実が貸主・借主の信頼関係を破壊する程度の重いものであることが必要とされています。
賃借権の無断譲渡・無断転貸、無断増改築等については、信頼関係を破壊する程度の契約違反と判断されることが多いですが、賃料の滞納については、1か月程度の滞納では足りず、常時3か月以上の滞納額になっているなどの事情が必要とされます。

使用目的の違反については、ケースバイケースですが、例えば、居住用として賃貸したアパートが、風俗店の営業に使用されている場合などには、貸主による契約の解除が認められるでしょう。

(条項の例)
借主が賃料の支払を1か月でも遅滞し、貸主が相当の期間を定めて催告をしたにもかかわらず、その支払を履行しない場合には、貸主は本契約を解除することができる。

原状回復

不動産賃貸借契約書では、契約終了時の原状回復について、定めが置かれているのが通常です。
原状回復とは、対象となる不動産を、賃貸借の開始時の原状に回復したうえで、明け渡すことを言います。
例えば、土地上の建物を撤去するとか、建物内に設置した附属物を取り除くことなどです。

不動産賃貸借契約では、原状回復をめぐるトラブルが少なくありません。
不動産賃貸借契約書の規定では、借主に重い原状回復義務を課していることが多々ありますが、通常の使用による損耗・毀損については、法的には復旧義務を負わないものと判断されていることに注意しなければなりません。

貸主としては、不動産賃貸借契約書における原状回復に関する条項の内容と運用について、トラブル回避の観点から、単価等を事前に明示するとともに、復旧対象を適正な範囲に絞るなどの配慮が必要となるでしょう。

(条項の例)
借主は、本物件を貸主に明け渡すに際し、借主の負担において本物件を本契約開始時の状態に復する義務を負う。

弁護士にご相談ください

以上のほかにも、不動産賃貸借契約書には、注意すべきポイントが多々あります。

契約書のチェック・作成については、法律の専門家である弁護士にご相談ください。
当事務所の弁護士は、これまでに、地域の企業・法人様から、契約書のチェック・作成に関するご相談・ご依頼を多数お受けして参りました。
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