はじめに

期間の定めのない契約で正社員を雇用する場合に、本採用の前に試用期間が設けられることが多くあります。
試用期間は、その従業員の入社後に能力や適性を評価・判断するために設けられるものであり、1か月から6か月程度とされるのが一般的です。

試用期間の法的性質は、「解約権留保付労働契約」であると考えられています。
つまり、試用期間中にその従業員が不適格と認められた場合には、解約権を行使して雇用契約を解消できることを意味します。
就業規則や雇用契約書などにも、その旨を明記していることが多いでしょう。
しかし、本採用を拒否して雇用契約を解消することは、法的には解雇の性質を持ちます。
したがって、無制限に本採用拒否ができるわけではないことには、注意が必要です。

また、就業規則や雇用契約書などに、必要に応じて試用期間を延長できる旨を定めていることも少なくありません。
試用期間の延長は、試用期間中に適格性の評価・判断が困難な場合に、行うことが想定されています。
しかし、試用期間の延長は、その従業員の地位を不安定なものとし、大きな不利益を及ぼすものですので、やはり無制限に行うことはできません。

試用期間の延長

試用期間の延長については、就業規則や雇用契約書などに延長事由が定められていることが多いでしょう。
延長事由に該当するのであれば、原則として、試用期間を延長することができます。
ただし、延長事由が合理的なものではない場合や、延長を必要とする特別の理由がないと考えられる場合には、試用期間の延長が認められないこととなります。

これに対し、就業規則や雇用契約書などに定めのない理由による試用期間の延長は、非常に高いハードルがあります。
元々の試用期間の長さ、延長しようとする期間の長さ、延長を必要とする合理的事情の有無などを考慮して、判断されることになるでしょう。
しかし、明文化されていない理由による試用期間の延長は、相当に困難であるのが通常です。

本採用拒否ができる場合

本採用拒否は、上記のとおり、解雇の性質を有するものであり、そう簡単に行うことはできません。
裁判例によると、客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当として是認される場合にのみ、本採用拒否が許されるとされています。
一方で、本採用拒否は、通常の解雇とまったく同一に論ずることはできず、通常の解雇よりも広い範囲で認められるものとされています。

そして、裁判例では、より具体的な判断基準として、①採用決定後の調査の結果または試用期間中の勤務状況等により、当初は知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、②その事実に照らして、その者を引き続き雇用するのが適切でないと判断することが客観的に相当であると認められる場合には、本採用拒否ができるとの判断が示されています。

通常の解雇よりは要件が緩和されるとはいえ、本採用拒否のハードルが低いものとは言いがたいのが実情です。
本採用拒否を検討する際には、通常の解雇と同様に慎重な判断が求められます。
一方で、例えば、特殊な技能に着目して採用したようなケースでは、試用期間中に採用に見合う技能が認められない場合には、通常の解雇よりも緩やかな要件で本採用拒否を行うことが認められるでしょう。

本採用拒否を検討する際の注意点

本採用拒否は、上記のように、無制限に許されるわけではないことから、慎重に検討していくことが必要となります。
裁判で本採用拒否が違法とされて、賃金や慰謝料など、多額の金銭支払が命じられた事例なども多数存在しますので、十分にご注意ください。
以下では、本採用拒否を検討する際の注意点を挙げさせていただきます。

本採用拒否の理由

新卒者や未経験者を採用したケースで、能力不足を理由に本採用拒否をする事例が散見されます。
しかし、即戦力として期待することが不相当な場合には、本採用拒否に合理的な理由がなく、違法と判断されます。

また、経験者として採用された従業員について、仕事のプロセスには問題がないのに、結果が振るわないことのみを理由に本採用拒否を行うことも、危険が大きいと言えます。
入社して短期間で成績を上げられないことは、一概に避難できるものではなく、仕事のプロセスに問題がないのであれば、成績改善の余地があると判断されることが多いためです。

本採用拒否の時期

就業規則や雇用契約書で、「入社後〇か月間を試用期間とする」ことのみを定めている場合には、試用期間の途中に本採用拒否をすることはできません。
能力や適性を評価・判断するための期間として、「〇か月」の試用期間を設ける旨の労使間の合意が存在するため、これを一方的に短縮することは許されないのです。

これに対し、就業規則や雇用契約書で、「試用期間の途中でも、本採用を拒否することがある」と定めている場合には、試用期間として定めた「〇か月」の途中でも、本採用拒否を行うことができます。
また、履歴書の職務経歴に虚偽があることが判明した場合など、試用期間の満了を待つまでもなく、不適格と判断できる特段の事情がある場合には、試用期間の途中でも本採用拒否を行うことができます。

試用期間中の教育・指導

就業規則や雇用契約書で、本採用拒否の事由として、「試用期間における作業能率または勤務態度が著しく不良で、社員として不適格であると認められたとき」などと定めている例が多くみられます。
試用期間は、教育期間としての性質もあるため、能力不足などを理由として本採用拒否をする場合には、試用期間中の教育・指導の有無・内容も問われます。

必要な教育・指導を行わないままに、不適格であるとして本採用拒否をすると、違法と判断されるリスクが高いです。
特に、上記のように試用期間の満了前に本採用拒否を行うことは、試用期間中の教育・指導が不十分であったことと結びつきやすいため、十分に注意する必要があります。

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