1 詐害行為取消権とは

企業間の取引や金銭の貸し借りでは、何らかの担保権が設定されていることは少なくありませんが、当然、担保権の設定なしでの取引や金銭の貸し付けを行う場合も出てきます。

債務者が約束どおりの支払をしない場合には、債権者は、債務者が持つ一定の財産を強制的に換価して、そこから債権の回収を図る「強制執行」という手続を行うことになります。
この強制執行の対象となる債務者の財産のことを「責任財産」といいますが、担保権などの債権回収手段を持たない債権者は、その責任財産に対して強制執行を行うことで債権を回収するしかありません。

しかし、債務者は、強制執行に入る前の段階では、担保権の設定のない財産を自
由に処分することができます。
そのため、債務者が、意に反して自分の財産を換価されるのを嫌だと考えて、例えば所有する土地を第三者に贈与したりすることがあります。
意図的に特定の債権者が債権回収できないように、あるいは特定の債権者のみに抜け駆けさせようとして、特定の債権者に対してのみ支払をするということもあります。

債権者としては、もちろん、このような強制執行をできないようにさせる債務者の行為を許すことはできないでしょう。
そこで、民法は、債務者が無資力(債務超過)であるにも関わらず行った取引等を取り消して、減少した債務者の財産を取り戻す制度を設けています。
これを「詐害行為取消権」といいます。

2 詐害行為取消の要件

詐害行為取消権を行使する場合、次の要件を満たす必要があります。

⑴ 債務者が無資力であること
⑵ その行為が財産権を目的としていたこと
⑶ 債務者に詐害意思があったこと
⑷ 債権が詐害行為前に成立していたこと
⑸ 受益者や転得者が、債権者を害することを知っていたこと

以下、各要件を解説します。

⑴ 債務者が無資力であること

詐害行為取消権とは、債務者に弁済する資力・経済力がなくなったときに、責任財産を保全することで、強制執行を可能にするための制度です。
したがって、債務者に弁済する資力・経済力がある場合は、財産をどのように処分するかは債務者の自由であり、債権者が債務者の行為に介入する理由はありません。
債務者に弁済する資力・経済力がない(無資力)ということは、当然の要件であるといえるでしょう。

⑵ その行為が財産権を目的としていたこと

取り消すためには、財産権を目的とした行為であることが要求されます。
婚姻、離婚、養子縁組といった身分行為などは取り消しの対象にはなりません。

⑶ 債務者に詐害意思があったこと

債務者が詐害行為を行った場合に、「この行為によって債権者の権利が害される」という認識があったことが要件とされます。
この場合、あくまで「財産が減少して、債権者に返済ができなくなる」ということを知っていれば十分であり、「債権者を困らせてやろう」という意図(害意)といったものまでは必要ありません。

⑷ 債権が詐害行為前に成立していたこと

債権者は、債務者が詐害行為を行う前に債権を取得しておく必要があります。
責任財産の保全に債権者が関われるのは、その時に債権者が債権を有しているからであり、債権を有していないときの債務者の行為に口を出すことはできないからです。

⑸ 受益者や転得者が、債権者を害することを知っていたこと

受益者とは、債務者の詐害行為によって利益を得た者です。
転得者とは、その受益者からさらに転得して利益を得た者です。
詐害行為取消権が成立するためには、詐害行為の相手方である受益者・転得者も、詐害行為によって債権者を害することを知っていたことが必要となります。
もし、詐害行為の存在を知らなかった場合にも、詐害行為取消権を認めてしまうと、取引の安全が害され、経済活動の委縮につながってしまうため、この要件が必要となっています。

3 詐害行為取消権の活用と注意点

⑴ 行使の方法と処分禁止の仮処分

債権者取消権を行使するためには、必ず裁判所を介した手続によらなければなりません。
第三者にも影響を及ぼすことになるので、裁判所の判断に委ねるべきと考えられたからです。
そのため、口頭や書面で「詐害行為を取り消す」と通知をしても、法的な意味はありませんので注意が必要です。

また、詐害行為取消権を行使して勝訴判決を取得しても、受益者・転得者が債務者と同様に、その責任財産を第三者に譲渡してしまったら、その後に強制執行することはできなくなります。
そこで、受益者・転得者の手元で責任財産の現状を維持させるために、責任財産が不動産であれば、処分禁止の仮処分を申し立てるのが一般的です。

⑵ 詐害行為にあたる行為とは

次に、どのような行為が詐害行為取消権の対象となるかについて説明します。

贈与
典型的な詐害行為取消権の対象です。

債務の支払
特定の債権者に対してのみ、債務の支払をすることも、詐害行為とみなされます。
他の債権者にとっては、強制執行の対象にしようとして財産がなくなったという状況が生じているからです。

遺産分割
例えば、債務者が遺産分割協議の際に、他の相続人と謀って、債務者の相続分を0とする内容の遺産分割を行った場合、債権者は取り消しの対象とできる可能性があります。

債務免除
例えば、債務者が他の人に対して売掛金を持っていて、その請求をしないという債務免除を行った場合、取り消しの対象となります。
債権者は、その売掛金を差し押さえることにより、取り立てを行って債権回収できることから、これを保全する必要があるからです。

相当価格での売却
正当な価格で物を売却した場合でも、取り消しの対象とできると考えられています。
例えば、不動産を売却した場合、現金に換えることで財産隠しが容易になり、債務者の財産の保全が難しくなるからです。

⑶ 詐害行為取消権が認められた場合

詐害行為取消権の行使が認められて、責任財産を取り戻すことができる範囲は、取り消しをもとめた債権者が持つ債権の額に限定されます。
例えば、500万円の債権を有する債権者が、債務者の特定の債権者に対する1000万円の債務の支払を取り消した場合、取り戻すことができるのは500万円までになります。
ただし、3000万円の債権を有する債権者が、債務者の第三者に対する5000万円の不動産の贈与を取り消した場合には、「この不動産のうち、3000万円を取り戻す」ということはできませんので、その5000万円の不動産が債務者の責任財産に戻ります。
そして、債権者の債権回収は、債務者の下に責任財産が戻ってから、行われることになります。

もっとも、取り消しの対象が物や金銭の場合、取り消した後、債務者に返還されることにとどまらず、債権者自身に引き渡すことができるとされています。
この場合には、債務者の責任財産の保全という手段を超えて、優先弁済を受けることができます。
取り戻したい責任財産が物や金銭の場合には、詐害行為取消権は、これを行使する債権者にとって大変有効な債権回収の手段となるわけです。

4 弁護士にご相談ください

詐害行為取消権は、もともとは抽象的な条文しかなく、法律の専門家の中でも難解な分野とされています。
民法改正により、実際の運用を補っていた判例の解釈が明文化されたことで、ある程度は理解しやすくなりました。
しかしそれでも、難解な分野であることには変わりありません。

とはいえ、担保権を持たない債権者にとっては、非常に有効な債権回収手段となる場合があります。
もし、有効な担保権を持たず、強制執行の中で債権回収を検討されている場合、一見して債務者に責任財産がなくても、詐害行為取消権の行使により、責任財産の取り戻し、あるいは優先弁済を受けることができる可能性があります。
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