はじめに

債権回収を確実にするための有効な方法のひとつとして、担保権の設定・行使が挙げられます。
担保権には、様々な種類のものがありますので、取引の種類・実態や自社・取引先の実情などに合わせて、未収金問題の予防策としての担保権の設定、未収金回収の実行手段としての担保権の行使について、ご検討いただくのがよいでしょう。

担保権の種類

担保権には、抵当権、譲渡担保権、連帯保証などのように当事者間の合意で成立する約定担保と、留置権、先取特権などのように一定の場合に法律上当然に成立する法定担保とがあります。

また、抵当権、譲渡担保権、所有権留保などのように物を対象とする物的担保と、連帯保証などのように人を対象とする人的担保とに分類されます。

物的担保

抵当権

顧客・取引先が不動産(土地・建物)を保有している場合には、不動産に抵当権を設定することが考えられます。
不動産に抵当権を設定することで、顧客・取引先が支払を遅延した場合に、裁判所に不動産の競売を申し立て、債権の回収を図ることが可能となります。
抵当権は、当事者間の合意で成立する約定担保です。
抵当権の種類としては、1回の取引に係る債権や既存の債権を担保するための通常の抵当権のほかに、継続的な取引から発生する現在および将来の複数の債権を担保するための根抵当権が存在します。

これから取引関係に入る段階において、顧客・取引先が保有する不動産に抵当権の設定などを求めることは、困難であることも多いでしょう。
しかし、取引上、顧客・取引先よりも優位な立場にある場合には、その力関係を利用して、取引開始前に不動産に抵当権の設定を受けておくことなどが可能なケースもあります。
また、取引契約書の中で、将来一定の事情が生じた場合には、抵当権などの担保権を設定する旨を定めておくことも考えられますし、未収金が発生した場合の取引継続や分割払いの条件として、抵当権の設定を要求することなども有効です。

譲渡担保権

顧客・取引先が保有する動産(備品・機械など)や債権(売掛金)に譲渡担保権を設定することは、債権回収にとって有効です。
譲渡担保とは、債権の支払の担保とするために、動産の所有権や債権を譲り受けたうえで、支払が履行された場合にはその権利を返還するという形式をとるものです。
譲渡担保は、当事者間の合意で成立する約定担保です。
顧客・取引先が保有する不動産にすでに金融機関の抵当権が設定されている場合でも、価値のある動産や債権に譲渡担保を設定できる事案が多くあります。

譲渡担保権の設定については、特定の動産や債権に対して設定することができるほかに、倉庫内の商品など入庫・出庫によって種類・数量が変動する動産についても、種類・所在場所・量的範囲を指定するなどの方法で目的物を特定できれば、集合物譲渡担保権を設定することも可能です。
また、継続的取引に関して将来発生する債権などを集合体として担保にとる集合債権譲渡担保権という形式の担保設定も可能です。

所有権留保

所有権留保とは、商品の売買契約において、売主が買主に対して商品を売買し、商品の引渡しを終えた場合であっても、買主が売買代金を完済するまでは、商品の所有権が売主のもとに留保するという取り決めのことを言います。
所有権留保は、当事者間の合意で成立する約定担保です。

商品売買の取引契約書に所有権留保の条項を設けることで、買主が売買代金の支払を遅延した際に、売主は商品の所有権を根拠に引き上げを求めて、損失を回避することが可能となります。
継続的な商品売買の基本契約書に所有権留保の条項を盛り込むことは、債権回収の観点から有効な対策であると言えます。

留置権

留置権とは、顧客・取引先から支払を受けるまでは、顧客・取引先から預かっている物品の引渡しを拒むことができる権利です。
留置権は、要件を満たせば法律上当然に成立する法定担保です。留置権は、本来的には物品の引渡しを拒否するだけの権利であり、物品の所有権を自社のものとできるわけではありません(もっとも、留置権に基づく競売を裁判所に申し立てることができます)。
しかし、物品を取り戻したいと考える顧客・取引先に対して、間接的に支払を強制する効力があります。

留置権には、民事留置権と商事留置権の2種類があります。
民事留置権とは、民法に定めのある留置権のことで、①他人の物を占有していること、②債権が目的物に関して生じたものであること、③債権が弁済期にあること、④占有が不法行為によって始まったものではないことの要件を満たせば成立します。

商事留置権とは、商法に規定のある留置権です。
①両当事者が法人や事業者などの商人であること、②債務者が所有する物または有価証券を占有していること、③債権が両当事者の事業から生ずるなど商行為により生じたものであること、④債権が弁済期にあること、⑤契約による保管など商行為により占有を開始したことの要件を満たせば成立します。
民事留置権との違いとして、両当事者が商人・商行為に該当すること、債務者の所有物であることなどの要件が付加されている一方で、債権と目的物との関連性は不要とされています。

先取特権

先取特権とは、法律の規定に基づき、債務者の財産について、他の債権者に先立って債権の弁済を受けることのできる権利を言います。
先取特権は、要件を満たせば法律上当然に成立する法定担保です。

先取特権の類型には様々なものがありますが、債権回収との関係では、動産売買先取特権が活用されるケースがあります。
動産売買先取特権とは、物品の売買契約において、物品の売主が売買代金の債権について、売買した物品に対して先取特権を有するものです。
物品が債務者の手元にある場合には、裁判所に物品の差押・競売を申し立てることにより、債権回収を図ることが可能です。
物品が転売された場合には、転売代金が未払であれば、転売代金を差し押さえることが可能です。

また、不動産の賃貸人は、賃料等の債権について、不動産に常置された物品に対して先取特権があります。
これを不動産賃貸の先取特権と言います。
この不動産賃貸の先取特権についても、債権回収の場面で活用されるケースがあります。
ただし、先取特権の行使による債権回収については、緊急に多岐にわたる準備を行ったうえで、裁判所に申立てを行う必要があります。

人的担保

顧客・取引先から抵当権や譲渡担保権などの物的担保の提供を受けることが困難な場合には、人的担保として保証人を立てさせることが考えられます。保証人は、当事者間の合意で成立する約定担保です。
ただし、人的担保の担保価値は、保証人の資力によって左右されますので、事前に保証人となる者の財産状況の調査・確認を行うことが大切です。

また、保証人には、通常の保証人と連帯保証人の2種類があります。
通常の保証人の場合には、債権者から支払を請求されたのに対し、まずは債務者に請求するように求めたり、債務者の財産を差し押さえるように求めたりすることができます。
また、通常の保証人の場合には、保証人が複数いるときには、債権者は各保証人に対して債権の全額の支払を求めることはできず、保証人の人数で頭割りした金額についてしか、1人の保証人に対して請求することができません。
これに対し、連帯保証人の場合には、上記のように先に債務者に当たるように求めることはできず、保証人の人数に関係なく全額の支払に応じなければなりません。

したがって、顧客・取引先に保証人を立てさせる場合には、通常の保証人ではなく、連帯保証人を立てさせるべきであると言えます。
なお、民法の改正により、2020年4月以降に連帯保証人を立てさせる場合については、経営者保証(経営者等が企業・法人の債務を連帯保証すること)など一定のケースを除いて、公正証書を作成しなければなりませんので、ご注意いただければと思います。

弁護士にご相談ください

以上のように、債権回収を確実にするための方法として、担保権の設定・行使は有効な手段であると言えますし、担保権には様々なものがあります。
当事務所の弁護士は、これまでに、地域の企業・法人様から、債権回収に関するご相談・ご依頼を多数お受けして参りました。
未収金問題の予防策や未収金回収の実行についてお悩みの企業・法人様がいらっしゃいましたら、ぜひ一度、当事務所にご相談いただければと存じます。

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