はじめに
医療法人やクリニックでは、医療事故による損害賠償の問題が発生することがあります。
医療事故による損害賠償は、まずは患者側が診療記録の証拠保全を申し立てることから始まるケースが多いです。
また、医師の過失や因果関係の有無が大きな争点となるケースが多いです。
以下では、このような医療事故による損害賠償の問題の特徴を踏まえて、ご説明させていただきます。
診療記録の証拠保全
証拠保全とは、あらかじめ証拠調べをしておかなければ、その証拠を使用することが困難となる事情がある場合に、裁判所に申立てをして、その証拠を確保する手続です(民事訴訟法234条)。
医療事故による損害賠償では、カルテ等の診療記録を対象とする証拠保全が頻繁に利用されています。
患者側としては、証拠保全によって診療記録を入手して事前に検討することで、損害賠償を請求するかどうかの判断材料にし、あるいは、他の有効な証拠の存在を探索する手掛かりにします。
裁判所が診療記録の証拠保全を認容すると、裁判所から実施の1~2時間程度前に実施予告の連絡がきたあと、裁判官および裁判所職員が病院やクリニックを訪れ、カルテ等の診療記録を提出させて、その場でカメラ撮影やコピーをして証拠を確保するという流れになります。
証拠保全において診療記録の提出を拒否したとしても、法律上、罰則があるわけではありません。
しかし、証拠保全の際には診療記録の提出を拒否しておいて、医療事故による損害賠償の訴訟となった後で診療記録を証拠として提出しても、改ざんを疑われるなどの不利益を被ることになります。
したがって、証拠保全の手続に誠実に協力することが、基本的な対応となります。
医師の過失・因果関係
医療事故による損害賠償を請求するためには、医師に医療行為の過失(検査義務違反、手技上の過失、術後管理不足など)が認められることが前提となります。
患者側は、証拠保全によって入手したカルテ等の診療記録をもとに、協力医の意見書や医学文献を根拠として、医師の過失があると主張して損害賠償を請求してくることが考えられます。
なお、実際には、患者側が診療記録を入手したうえで、医師の過失の有無について検討した結果、損害賠償の請求は不可能と判断し、断念するケースの方が多いと言われています。
示談交渉による解決が図られなかった場合などには、患者側から損害賠償を請求する訴訟が提起されることがあります。
医療事故による損害賠償の訴訟では、患者側および医療法人・クリニック側の双方から協力医の意見書が提出され、裁判官が医師の過失の有無を判断するための材料とされることが多いです。
裁判官は、法律の専門家ではあっても、医学の専門家ではないため、このような意見書を参照するほかに、裁判所が選任する鑑定医による鑑定が実施されることもあります。
そして、医師に医療行為の過失(検査義務違反、手技上の過失、術後管理不足など)が認められることを前提に、患者の死亡や後遺症などの結果との因果関係があることが、損害賠償を請求するための要件となります。
因果関係とは、医師に医療行為の過失がなければ、患者の死亡や後遺症などの結果が発生しなかったと言えることです。因果関係の有無は、患者側において、高度の蓋然性(裁判官が十中八九確からしいと考える程度)をもって証明することが必要です。
なお、このような因果関係の証明までは至らなくても、患者側において、医師に医療行為の過失がなければ、患者の死亡や後遺症などの結果が発生しなかった相当程度の可能性があることを立証すれば、慰謝料の支払が命じられることがあります(最高裁判所平成15年11月11日判決など)。
また、患者側からは、医師の過失として、上記のような医療行為の過失(検査義務違反、手技上の過失、術後管理不足など)のほかに、説明義務違反が主張されることが多々あります。
医師の説明義務に関する最高裁判所平成13年11月27日判決では、手術を実施する際の説明事項として、①診断(病名と病状)、②実施予定の治療内容、③治療に付随する危険性、④他に選択可能な治療法があれば、その内容と利害得失や予後を挙げています。
手術以外の診療の場面においても、以上の4つの事項を念頭において、患者に説明を行うことが必要であると考えられます。
このような説明義務に違反すれば、患者の意思決定権を侵害したものとして、慰謝料の支払が命じられることがあります。
損害賠償額
医師に医療行為の過失(検査義務違反、手技上の過失、術後管理不足など)によって、患者の死亡や後遺症などの結果が発生した場合の損害賠償額は、結果の程度、患者の年齢や収入などによって異なります。
重度の後遺症や死亡に至った事案では、損害賠償額は相当高額となり、数千万円あるいは1億円を超えることもあります。
一方で、医療行為の過失(検査義務違反、手技上の過失、術後管理不足など)と患者の死亡や後遺症などの結果との因果関係の立証には至らないものの、上記の相当程度の可能性が認められる場合や、医師の説明義務違反に対する慰謝料の金額としては、数十万円ないし300万円程度とされるケースが多いです。
いずれにしても、医療事故による損害賠償のトラブルへの対応は、非常に負担が大きいのが通常ですから、弁護士のサポートのもとに対応に当たるのがよいでしょう。
また、高額の損害賠償リスクに備えて、医師賠償責任保険に加入することが必須です。
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