はじめに

発信者情報開示請求とは、誹謗中傷や風評被害にあたる問題のある投稿を行った投稿者を特定するため、プロバイダ業者に対して、投稿者に関する情報の開示を求めることを言います。
インターネット上での投稿は匿名でなされることも多く、そのような場合、投稿者に対して法的な責任を追及していくためには、その投稿者の氏名や住所などの情報を特定する必要があります。
そのためにも、発信者情報開示請求を行う必要があるのです。

このような発信者情報開示請求の権利は、プロバイダ責任制限法という法律に基づいて認められているものです。
プロバイダ責任制限法に基づき、「権利が侵害されたことが明らかである」ことが認められる場合に、開示請求が認容されることになります。
ここでいう権利とは、名誉権やプライバシー権、著作権、商標権など法的に保護される権利のことを指します。

発信者情報開示請求により、問題となる投稿を行った投稿者の氏名や住所などの情報を特定するまでには、大きく分けて2回の開示請求の手順を踏む必要があります。

インターネットの仕組みについて

発信者情報開示請求の流れを理解するには、インターネットの仕組みについて知っておくことが有用ですので、まずはインターネットの仕組みについて簡単にご説明します。
例えば、スマートフォンを利用して、ネット上の掲示板にアクセスして、掲示板に投稿を行う場合には、どのような流れで、投稿・表示に至るのでしょうか。

まず、インターネットを利用する際には、インターネット用の通信サービスを提供しているプロバイダ業者との間で、インターネット利用に関する契約を締結することが必要となります。
このプロバイダ業者のことを、ここでは「アクセスプロバイダ」と呼びます。
アクセスプロバイダと契約を締結することで、アクセスプロバイダを経由して、インターネットに接続することができるようになり、ネット掲示板やSNS、動画サイト、ホームページなどのウェブサイトを見ることができるようになります。

インターネット上にあるウェブサイトには、そのウェブサイトを管理しているプロバイダ業者がおり、そのプロバイダ業者が情報を提供することで、サイトを見ることができる状態となっています。
このようにウェブサイトを管理しているプロバイダ業者のことを、ここでは「コンテンツプロバイダ」と呼びます。
ウェブサイトを見るということは、コンテンツプロバイダが提供している情報を閲覧している状態であるとイメージすることができます。

ネット掲示板に投稿を行う場合、投稿者は、スマートフォン端末を利用し、アクセスプロバイダを経由して、コンテンツプロバイダが管理しているウェブサーバーに対し、投稿内容に関する情報を送信することで、そのネット掲示板上において投稿がなされ、掲示板に投稿内容が表示されるということになります。

発信者情報開示請求では、以上の投稿の流れの逆をたどることで、投稿者に関する情報の特定を進めていくことになります。
まず、最初にウェブサイトを管理しているコンテンツプロバイダに対して、問題となる投稿を行った者のIPアドレスとその情報が送信された時刻(タイムスタンプ)の開示を請求します。
IPアドレスとは、インターネット上での住所に相当するものであると説明されますが、このIPアドレスが判明することで次のステップに進むことができます。
IPアドレスとタイムスタンプが開示されれば、IPアドレスの情報からアクセスプロバイダを特定することができますので、次は、アクセスプロバイダに対して、そのタイムスタンプの日時にそのIPアドレスを利用して接続した者、つまり投稿者の氏名や住所などを開示するように請求します。
その請求が認められることで、初めて、投稿者に関する情報を把握することができます。

コンテンツプロバイダに対する発信者情報開示請求

コンテンツプロバイダに対しては、IPアドレスとそのタイムスタンプの情報の開示を請求することになります。
請求の方法としては、任意の開示を求める方法と裁判所の手続を利用して開示を求めていく方法の2通りがあります。

任意の開示を求める場合には、コンテンツプロバイダに対して、「発信者情報開示請求書」という様式の書類を作成して、郵送することになります。
この請求に対して、任意にIPアドレスとタイムスタンプの開示に応じてもらえればよいのですが、開示に応じない場合には、裁判所の手続を利用して開示を請求していく必要があります。

裁判所の手続を利用する場合、民事保全手続(権利を暫定的に保全する手続)を利用し、発信者情報開示仮処分の申立てを行うことが通常です。
通常の訴訟手続ではなく、民事保全手続を利用するのは、緊急性が高いためです。
IPアドレス等の開示を受けたら、次にアクセスプロバイダに対して発信者情報開示請求を行うことになりますが、アクセスプロバイダが情報を確認する際には、そのアクセスログを照会する必要があります。
ところが、アクセスプロバイダは、いつまでもアクセスログを保存しているわけではなく、アクセスログは一定の期間が経過すれば削除されてしまいます。
そうなると、せっかく手続を進めていったとしても、投稿者の情報を特定することができなくなってしまいます。
そのため、迅速に手続を進めることができる保全手続が利用されます。

保全手続では、その投稿によって「権利が侵害されたことが明らかである」かどうかが審理されることになります。
審理の結果、裁判所が発信者情報開示仮処分を命じるのが相当であるとの判断をした場合には、申立人に対して、担保金の供託が命じられることになります。
発信者情報開示仮処分の場合、担保金としてはおおむね10万円から30万円程度の金額とされることが多いようです。
その上で、担保金の供託が行われると、発信者情報の仮の開示を命じる仮処分決定が発令されることになります。
開示を命じられたコンテンツプロバイダは、発信者情報開示仮処分決定に対して不服申立てを行うこともできますが、コンテンツプロバイダは、仮処分決定が出された場合、ほとんど開示に応じてきます。

コンテンツプロバイダに対する発信者情報開示請求の期限

コンテンツプロバイダからは、IPアドレスとともにタイムスタンプの開示を受ける必要がありますが、その情報にあたるアクセスログは、いつまでも保存されているわけではありません。
アクセスログの保存期間は、通常、3か月程度であると言われています。
そのため、問題となる投稿がなされてから3か月を経過すると、いつアクセスログが削除されてもおかしくない状態となりますので、コンテンツプロバイダに対する発信者情報開示請求は、遅くとも、問題となる投稿がなされてから3か月以内に行う必要があります。

アクセスプロバイダに対する発信者情報開示請求

コンテンツプロバイダからIPアドレスとタイムスタンプが開示されたら、次は、アクセスプロバイダに対して、そのタイムスタンプの日時にそのIPアドレスを利用して接続した者の氏名や住所などの情報の開示を請求することになります。
請求の方法としては、任意の開示を求める方法と裁判所の手続を利用して開示を求める方法の2通りがあることは、先ほどと同様です。

任意の開示を求める場合には、アクセスプロバイダに対して、「発信者情報開示請求書」という様式の書類を作成して、郵送することになります。
もっとも、アクセスプロバイダが任意の開示に応じることはほとんどありません。
アクセスプロバイダからすれば、この開示に応じるということは、顧客の情報を開示することに他ならないからです。
そのため、アクセスプロバイダに対する発信者情報開示請求は、裁判所の手続を利用して進めていくことが必要となります。

裁判所の手続を利用する場合、今度は保全手続ではなく、通常の民事訴訟手続を利用する必要があります。
なぜならば、アクセスプロバイダに対する開示請求が認められると、契約者の氏名や住所などの重要な情報が開示されてしまうことになり、投稿者の受ける不利益が大きいため、通常の民事訴訟によって、発信者情報開示が認められるかどうかが判断されなければならないと考えられているためです。

訴訟では、その投稿によって「権利が侵害されたことが明らかである」かどうかが審理されることになることは、先ほどと同様です。
審理の結果、裁判所が「権利が侵害されたことが明らかである」と認めた場合には、情報開示を命じる判決を下しますが、逆に「権利が侵害されたことが明らかである」と認められない場合には、請求を棄却する判決を下します。
裁判所の判決に対して、不服のある当事者は控訴を行うことができますが、当事者のいずれか一方からでも控訴がされた場合には、控訴審での審理が続けられることになります。
なお、開示請求が認められた場合、アクセスプロバイダから控訴されることはあまりありません。
ここまで進めて、ようやく、投稿者に関する氏名や住所などの情報を確認することができることになります。

なお、アクセスプロバイダがIPアドレスやタイムスタンプによって投稿者に関する情報を確認するためには、アクセスログを照会する必要がありますが、アクセスログは一定の期間が経過すれば、削除されてしまいます。
そのため、訴訟に先立って、アクセスプロバイダに対してアクセスログの保存を求めておく必要があります。
アクセスログが削除されてしまっていては、せっかく訴訟を提起して勝訴したとしても、全くの無駄に終わってしまうことにもなりかねないので、注意が必要です。

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