はじめに

ネットでの誹謗中傷や風評被害に遭った場合、まずは問題となっている投稿の削除を検討することになります。
インターネット上の情報は一瞬で不特定多数の人物に向けて拡散されてしまう可能性がありますので、問題となる投稿が拡散してしまう前に、その削除ができないかどうかを検討する必要があります。

削除の方法については、削除を求める相手方や手段によって、いくつかの種類があります。

投稿者に対する任意の削除請求

問題となった投稿を行った投稿者に対して、直接削除を求める方法が考えられます。
例えば、投稿者が実名で投稿を行っている場合や、投稿内容から投稿者を特定することができる場合には、直接その人物に対して削除を求めることが考えられます。
また、例えば、ブログでの投稿や、SNSアカウント上での投稿の場合、そのアカウントに対して直接連絡を行い、削除を求めることが考えられます。

投稿者に対して削除を求める場合には、任意の削除を求めて交渉を進めていくことになります。
ここでは、問題となった投稿が違法であるとか、権利を侵害したものであるとまでは言えないとしても、投稿者自身が任意に削除に応じれば、その時点で目的が達成できるという特徴があります。
後に説明するとおり、ウェブサイトの管理者(コンテンツプロバイダ)に対する削除請求や裁判手続を利用した削除請求の場合には、少なくとも何らかの権利が違法に侵害されていると認められることが必要となりますので、そのような場合に比べて削除を実現できる可能性が広がることもあり得ます。

もっとも、逆に、権利を侵害する違法な投稿であったとしても、投稿者が任意の削除に応じなければ、削除は実現しないという特徴もあります。
任意の削除に応じない場合には、裁判手続を利用して、投稿の削除を求めていく必要があります。
また、ネット掲示板での匿名での投稿の場合など、直ちに投稿者を特定することができないこともありますので、この場合には、そのままの状態では投稿者に対する削除請求を行うことはできません。
この場合には、まずは発信者情報開示請求の手続を踏んで投稿者を特定した上で投稿者に対して削除請求を求めるか、ウェブサイトの管理者(コンテンツプロバイダ)に対して削除請求を求める必要があります。

ウェブサイトの管理者(コンテンツプロバイダ)に対する任意の削除請求

任意の削除請求

ウェブサイトの中には、削除に関する指針やガイドラインを作成・表明し、削除に関するメールフォーム等を準備しているものもあります。
そのため、そのようなウェブサイト上に用意されたメールフォーム等を利用して、削除依頼を出すことが考えられます。

任意の削除依頼の場合、そのウェブサイトの指針に記載された削除の条件を満たせば、削除されることになります。
もっとも、その判断を行うのはウェブサイトの管理者(コンテンツプロバイダ)ですから、管理者が削除を認めてくれないケースも多くあり得るところです。
そのため、任意の削除依頼を出す場合には、問題となった投稿がどうして削除対象となるのか、削除依頼の際に具体的かつ説得的に論じる必要があります。

ガイドラインに基づく削除請求

任意の削除を求める方法としては、プロバイダ責任制限法に基づくガイドラインに従った削除依頼を行う方法も考えられます。
この削除依頼は、正確には「送信防止措置」と呼ばれるものであり、「侵害情報の通知書兼送信防止措置依頼書」という様式の書類を作成し、ウェブサイトの管理者(コンテンツプロバイダ)に郵送して、削除依頼を行うことになります。
この削除依頼を受けた管理者(コンテンツプロバイダ)は、問題となった投稿を行った投稿者に対して、照会書を送り、投稿者から特に反論がなされなければ、削除が行われることになります。
また、ネット掲示板での投稿の場合など、管理者(コンテンツプロバイダ)が投稿者の連絡先を把握しておらず、連絡が取れない場合もありますが、この場合には、管理者(コンテンツプロバイダ)が「権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当な理由」があると認めれば、削除に応じることになります。

裁判手続を利用した削除請求

これまで説明してきた削除請求はあくまでも任意での削除を求めるものですので、投稿者やウェブサイトの管理者(コンテンツプロバイダ)が応じない限り、削除は実現できません。
また、これまで説明してきた削除請求については、管理者(コンテンツプロバイダ)側の回答待ちで時間がかかる場合もありますが、問題のある投稿は一刻も早く削除されることが望ましいと言えます。
そのため、投稿者やウェブサイトの管理者(コンテンツプロバイダ)が任意の削除に応じない場合や、任意の削除に応じないことが想定される場合、一刻も早い解決が望まれる場合には、裁判所の手続を利用した削除請求を行うことを検討する必要があります。

裁判所の手続を利用して削除を求める場合には、民事保全手続(権利を暫定的に保全する手続)を利用し、問題となる投稿の仮の削除を求める仮処分の申立てを行うことになります。
裁判所の手続には、通常の訴訟手続と、権利を保全するための保全手続の2通りがありますが、インターネット上での誹謗中傷や風評被害にかかる問題については、緊急性の高い事案であるため、比較的迅速に手続が進められる保全手続が利用されます。

仮の削除を求める仮処分は、問題となった投稿がなされたウェブサイトを管理しているコンテンツプロバイダを相手方にするのが通常です。
なぜならば、そのようなコンテンツプロバイダが、問題となった投稿それ自体を削除することができる立場にあるためです。
例えば、ネット掲示板の場合、投稿を行った投稿者であっても、自由には投稿を削除することができないこともあり得ます。

仮の削除を求める仮処分が認められるためには、名誉権やプライバシー権などの人格権が違法に侵害されていると認められる必要があります。
そのため、申立てにあたっては、問題となった投稿によって、名誉権やプライバシー権などの人格権が侵害されていること、そのような人格権侵害が違法であって正当化する事情が見当たらないことについて、資料等を踏まえて具体的に主張立証を行う必要があります。
また、仮の削除を求める仮処分の手続では、相手方に反論の機会が与えられますので、相手方から反論がなされた場合には、その反論の内容を踏まえて裁判所の判断がなされることになります。

その上で、裁判所が仮の削除を命じるのが相当であるとの判断をした場合には、申立人に対して、担保金の供託が命じられることになります。
仮の削除を求める仮処分の場合、担保金としてはおおむね30万円から50万円程度の金額とされることが多いようです。
そして、担保金の供託が行われると、その段階で、仮の削除を命じる仮処分決定が発令されることになります。
仮の削除を命じる仮処分決定に対して、削除を命じられたコンテンツプロバイダは、不服申立てを行うこともできます。
しかし、コンテンツプロバイダは、仮処分決定が出された場合には、その段階で削除に応じることがほとんどです。

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