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弁護士・木村哲也
代表弁護士

主な取扱い分野は、労務問題(企業側)、契約書、債権回収、損害賠償、ネット誹謗中傷・風評被害対策・削除、クレーム対応、その他企業法務全般です。八戸市・青森市など青森県内全域の企業・法人様からのご相談・ご依頼への対応実績が多数ございます。

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1 はじめに

企業が従業員を懲戒解雇にしたところ、その従業員から不当解雇であると主張され、トラブルになるケースがあります。
懲戒解雇は一般的に有効と判断されるためのハードルが非常に高いため、企業側が裁判で敗訴してしまったり、高額の解決金を支払うなど不利な条件での合意を強いられたりするリスクがあります。

一方で、懲戒解雇と比較すると、普通解雇の方が有効であると認められやすい傾向にあります。
そこで、懲戒解雇が無効とされる場合のリスクの軽減措置として、懲戒解雇をする際には予備的に普通解雇の意思表示も行うことが推奨されます。
以下では、この問題について、具体的な裁判例や懲戒解雇通知書の書式を紹介しながら、詳しくご説明いたします。

2 懲戒解雇と普通解雇の違い

(1)懲戒解雇について

懲戒解雇は、従業員に重大な非違行為がある場合に、就業規則の懲戒規定により懲戒処分としての解雇をすることです。

懲戒解雇が有効とされるためには、就業規則の懲戒規定によることが必要です。
就業規則を作っていない場合、就業規則に懲戒処分として解雇をなし得る旨の規定がない場合、就業規則の懲戒解雇事由に該当しない場合、就業規則の効力が認められない場合には、懲戒解雇は無効と判断されます。

就業規則は労働者に周知されていなければ効力が生じないものとされ、周知がなされているかどうかが争いになることは少なくありません。
就業規則の周知は、従業員に配布したり、職場内に掲示したり、社内に設置して設置場所を従業員に公示したり、パソコンやタブレットで従業員が常時閲覧できるようにしたりする方法により行うべきものとされます。
しかし、例えば、社長や役員の机などに就業規則を設置し、閲覧を申し出た従業員に見せるような対応としている場合、周知がなされていないと判断される可能性があります。

また、懲戒処分にあたり弁明の機会付与や懲戒委員会による審議を行う旨の規定が就業規則にある場合、これらの手続を欠く懲戒解雇は無効と判断される可能性が高いでしょう。

一方で、弁明の機会付与が就業規則に明記されていない場合に、弁明の機会を付与せずに懲戒処分とした事案において、懲戒解雇を有効とした裁判例(東京高等裁判所令和6年6月19日判決)と、けん責処分を無効とした裁判例(東京地方裁判所令和3年9月7日判決)があり、判断が分かれています。
そのため、リスク回避の観点からは、就業規則の規定の有無にかかわらず弁明の機会付与は行うべきです。

なお、弁明の機会付与とは、非違行為の有無・内容、非違行為に及んだ理由・動機、非違行為に対する現在の考え(反省など)を聞く機会を設けることを意味し、そのような機会を設けたことを記録化するなど証拠として残しておきましょう。

さらに、懲戒解雇は、普通解雇とは異なり、退職金を不支給とする旨が就業規則等に定められている場合が多いこと、労働基準監督署から除外認定を受けることにより解雇予告手当の支払義務を免れること、懲戒解雇歴が再就職の際に大きな障害となる場合が多いことなどの違いがあります。

このように、懲戒解雇は普通解雇よりも相当重い処分であると言えるため、懲戒解雇が有効とされるためには、相当悪質な非違行為があり、懲戒解雇がやむを得ないと言えることが必要であると考えられています。
そして、「非違行為の程度からすれば、普通解雇で足りる」と判断される場合には、懲戒解雇としては無効となります。

(2)普通解雇について

これに対し、普通解雇とは、能力不足、勤怠不良、業務命令違反、非違行為などを理由とする解雇です。

就業規則に解雇規定があれば、それに従って普通解雇を行います。
就業規則を作っていない場合、就業規則に解雇規定がない場合、就業規則の解雇事由に該当しない場合、就業規則の効力が認められない場合であっても、解雇とする客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が認められれば、有効に普通解雇をなし得ると考えられています。

普通解雇は懲罰にあたる懲戒処分としての解雇ではなく、有効とされるためのハードルは懲戒解雇と比較すれば低いものと考えられています。

(3)リスク回避のために普通解雇を選択する

以上、懲戒解雇と普通解雇の違いをご説明いたしましたが、就業規則の懲戒解雇事由に該当する場合、その非違行為は普通解雇の理由にもなり得ることは少なくないでしょう。

そのため、事案によっては、懲戒解雇をなし得ると考えた場合であっても、リスク回避のため、あえて普通解雇で処理することも有力な選択肢となります。
大阪地方裁判所平成29年3月28日判決では、「従業員が重大な不正行為を行った場合であっても、就業規則の周知性を欠いていれば懲戒解雇をすることができないことになるが、それは、使用者が就業規則の周知義務を怠ったという自らに帰責性がある事由の結果である(なお、その場合であっても普通解雇することは可能である。)。」と判示されています。

この点、普通解雇とした場合には、30日前の解雇予告または30日分の平均賃金の支払(解雇予告手当)が必要となりますし、就業規則等に退職金の定めがあれば退職金の支払も必要となるでしょう。

しかし、金品の横領など到底許しがたい事案を除いて、解雇予告手当の支払は合理的なリスクヘッジの保険料であると考えることもできます。
また、退職金が中退共(中小企業退職金共済)による場合には、(減額申請をせずに)中退共から(満額の)退職金が支払われたとしても、企業が財布を痛めることにはなりません。
そして、懲戒解雇であるからといって、必ずしも退職金の不支給・減額が許されるわけではありませんので、そのことも念頭に置いたうえで判断するとよいでしょう。

3 懲戒解雇を普通解雇に転換できるか?

ここで、過去に行った懲戒解雇について、後の裁判などで無効と判断される可能性が出てきたときに、これを普通解雇に転換できるか?(切り替えることができるか?)という問題があります。

この点、裁判例の多くは、懲戒解雇と普通解雇とでは趣旨や性質が異なるものであり、無効行為の転換を認めれば従業員の地位を著しく不安定にするなどの理由により、こうした転換は許されないと判断しています(大阪地方裁判所平成29年3月28日判決、浦和地方裁判所平成10年10月2日判決、東京地方裁判所昭和60年5月24日判決など)。

したがって、「仮に懲戒解雇としては無効とされても、後で普通解雇に切り替えると主張すれば問題はない」ということにはなりません。

4 懲戒解雇をする際に予備的に普通解雇の意思表示をする

(1)予備的な普通解雇の意思表示は可能

一方で、懲戒処分をする際に、「懲戒処分として無効であるときは、予備的に普通解雇とする」という意思表示をすることは認められると考えられています。

さいたま地方裁判所平成17年9月30日判決では、「使用者が、懲戒解雇の要件は満たさないとしても、当該労働者との雇用関係を解消したいとの意思を有しており、懲戒解雇に至る経緯に照らして、使用者が懲戒解雇の意思表示に、予備的に普通解雇の意思表示をしたものと認定できる場合には、懲戒解雇の意思表示に予備的に普通解雇の意思表示が内包されていると認めることができる。」と判示されました。

そして、同判決では、再教育のための配置転換をした後も勤務態度が改善せず、このままでは解雇も含めた処分を検討せざるを得ない旨を警告したにもかかわらず、その後も非違行為に及んだことから、いよいよ解雇するしかないとの意思を固めて懲戒解雇としたところ(懲戒解雇通知書には、懲戒解雇に処する旨と非違行為の事実および就業規則の適用条項を記載)、約2か月後に懲戒解雇の無効を求める裁判が提起されたことを受け、解雇予告手当を支払う旨を通知したうえでこれを支払ったという事情から、懲戒解雇の意思表示に予備的に普通解雇の意思表示が内包されていたものと認められました。

これに対し、東京地方裁判所平成2年7月27日判決では、労働組合側から退職金が支給されるようにしてほしいとの要請を受け、諭旨解雇にするつもりであったところ、従業員が速やかに回答しなかったので結局は発令されなかったこと、懲戒解雇の際に除外認定の申請をせず、解雇予告手当の提供をしているものの、非違行為の発覚後、懲戒委員会において懲戒処分についてのみ検討してきたものであり、従業員に交付された書面には懲戒解雇に処する旨と就業規則の適用条項のみが記載されていたことから、懲戒解雇の意思表示の際に同時に普通解雇の意思表示もなされたと認めることはできないと判断されました。

上記2件の裁判例の事案では、懲戒解雇通知書に懲戒解雇とする旨しか記載されていない(つまり、予備的に普通解雇とする旨が明記されていない)こと、解雇予告手当の支払ないし提供がなされていることが共通していますが、判断が分かれています。
結局のところ、懲戒解雇に至る経緯いかんであり、事情により判断が分かれるということであると思われますので、リスク対策の観点からは、懲戒解雇通知書において、予備的に普通解雇とする旨の意思表示を明記しておくべきでしょう。

(2)予備的な普通解雇の意思表示を明示する

このような予備的な普通解雇の意思表示を明記した懲戒解雇通知書の書式例をご紹介いたします。


【懲戒解雇通知書】のひな形をダウンロード
懲戒解雇通知書のひな形


注意する必要があるのは、懲戒解雇には懲戒解雇の基礎となる事実関係と就業規則の適用条項があり、普通解雇には普通解雇の基礎となる事実関係と就業規則の適用条項があるということです。

確かに、就業規則の懲戒解雇事由に該当する場合には、その非違行為は普通解雇の理由にもなり得ることは少なくないと考えられます。
しかし、懲戒解雇と普通解雇とでは、趣旨や性質および就業規則の適用条項などが異なります。
そのため、機械的に懲戒解雇と普通解雇を併記するのではなく、懲戒解雇と普通解雇のそれぞれについて、基礎となる事実関係と就業規則の適用条項を摘示するようにしましょう(基礎となる事実関係が重複するのであれば、重複するものを複数回記載する必要まではないと考えられます。しかし、少なくとも就業規則の適用条項は異なるはずですので、適用条項は懲戒解雇と普通解雇のそれぞれについて記載することが必須です)。

ここで、予備的な普通解雇の意思表示をしておくメリットとして、後に解雇の有効性が争われた場合、懲戒解雇では解雇通知書に記載しなかった解雇理由を後から追加主張することはできないのに対し、普通解雇ではそれが可能であるということも挙げられます。

なお、懲戒解雇をする際に予備的に普通解雇の意思表示をした場合において、後に裁判などの紛争が発生し、懲戒解雇としては無効とされる一方で普通解雇としては有効と判断されるときは、30日分の平均賃金を支払う必要があります(ただし、懲戒解雇の際に解雇予告または解雇予告手当の支払をした場合を除きます。主位的には懲戒解雇であっても、トラブル回避のために解雇予告または解雇予告手当の支払をするという対応はあり得ます)。

5 紛争発生時に予備的な普通解雇の意思表示をする

(1)一刻も早く予備的な普通解雇の意思表示をする

もっとも、懲戒解雇を行うにあたり労務問題に精通した弁護士のサポートを受けていればともかく、そうでない場合には懲戒解雇通知書に予備的な普通解雇の意思表示は明記されていないことが多いのが実情でしょう。
このような場合でも、紛争発生時に「先日の懲戒処分が無効であるときは、この度、予備的に普通解雇とする」という事後的な意思表示をすることができると考えられています。

そして、こうした事後的な予備的普通解雇の意思表示が有効とされる場合、即時解雇に固執すると認められなければ、意思表示(予備的普通解雇通知書)到達の日から30日の経過をもって雇用関係が終了するものと考えられています。
あるいは、予備的普通解雇通知書の文面に、到達予定日から30日以上後の日付をもって普通解雇とする旨を明記するとよいでしょう。

ここで注意しなければならないのは、無効とされた懲戒解雇の日から普通解雇により雇用関係が終了するまでの間の賃金の支払(バックペイ)が必要になるということです。

例えば、懲戒解雇とした後に解雇無効を求める裁判が提起され、その裁判において審理が進められる中で、解雇の有効性が微妙または敗色濃厚(無効と判断される可能性大)と認識するに至り、そこでようやく予備的な普通解雇の意思表示をしたとします。
この場合、懲戒解雇の日から1年やそれ以上の期間がすでに経過してしまっていれば、バックペイの金額が数百万円、あるいはそれ以上にのぼることもあり得ます。

このようにバックペイの金額が高額化することを防ぐためには、事後的な予備的普通解雇の意思表示をするのであれば、紛争発生後に一刻も早くその意思表示を行うということが必要となります。

(2)予備的な普通解雇の意思表示の通知先は?

ところで、不当解雇をめぐる紛争では、従業員側の代理人に弁護士がついていることが多く、この場合の予備的な普通解雇の意思表示の通知先は弁護士宛てとするべきか、従業員本人宛てとするべきかという問題があります。

この点、弁護士の代理権の範囲として、懲戒解雇の有効性をめぐる紛争対応だけなのか、予備的な普通解雇の通知の受領まで含まれるのかという問題もあるところ、念のため、弁護士と従業員本人の両方に対して通知を行うのが無難な対応であろうと考えられます。

なお、予備的な普通解雇の意思表示の通知(予備的普通解雇通知書の送付)は、意思表示をした事実および到達の日付を証明するため、配達証明付きの内容証明郵便により送付するべきでしょう(従業員本人宛ての通知は、受取拒否などに備えて慎重を期すのであれば、重ねて特定記録郵便でも同じ内容の通知を行います)。

6 解雇については当事務所にご相談ください

以上のように、懲戒解雇のリスク軽減のため、予備的に普通解雇の意思表示も行うという対応について、ご説明させていただきました。

この点、懲戒解雇の意思表示だけをしたと認められる場合には、懲戒解雇として無効とされれば、それだけで企業が負けてしまいます。
これに対し、予備的に普通解雇とする旨の意思表示をしておけば、懲戒解雇としては無効とされたとしても、普通解雇としては有効とされるという返り咲きを狙える可能性があるのです。

懲戒解雇に関する法律や裁判例の考え方は複雑であり、労務問題に精通した弁護士に相談しながら対応を進めることが強く推奨されます。
当事務所では、懲戒解雇に関する助言、懲戒解雇の手続サポート、懲戒解雇をめぐる紛争対応など、豊富なご相談・ご依頼実績がございます。
懲戒解雇についてお困りのことがありましたら、当事務所にご相談いただければと存じます。

記事作成弁護士:木村哲也
記事更新日:2026年6月24日

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