1 モンスターペイシェントとは

モンスターペイシェントとは、医師や看護師などの医療従事者に対して、暴言・暴力を振るったり、不当な要求・クレームを述べたりする患者やその家族のことを指します。
つまり、医療従事者に対するカスタマーハラスメントをする方を指します。

医療従事者が丁寧に対応しているにもかかわらず同じ要求を繰り返すパターンもあれば、クレームを述べるだけにとどまらず診療費の支払いを拒否するパターンもこれに含まれます。
医療従事者のほとんどは、大なり小なりこのようなモンスターペイシェントの被害に遭われたことがあるでしょう。

2 モンスターペイシェント問題を放置する危険性

このようなモンスターペイシェントによるハラスメント行為が行われる理由は多様ですが、その一つに医師の応招義務(医師法19条1項)が挙げられるでしょう。
また、医療従事者には、患者に対して適切な説明を行い、理解を得られるよう努めるという説明義務(医療法1条の4第2項)が課せられている点も挙げられるでしょう。
つまり、モンスターペイシェントは、これらの義務を広く解釈し、あるいは、これらの義務を逆手にとることで、何か気に食わないことについての八つ当たりの理由としているのです。
これに加え、医療従事者側においても、患者やその家族を「お客様」と考え、失礼な対応をしてはならないという過剰なまでの「患者至上主義」の考え方が根付いていることも相まって、このようなモンスターペイシェントの言動をある意味で助長している側面もあるでしょう。

しかし、このようなモンスターペイシェントへの対応を放置したり、あるいは、その要求を受け入れすぎたりすることは、医療施設の正常な業務運営に支障が生じるおそれがあります。
例えば、モンスターペイシェントの言動により、他の患者が被害を受ける可能性があります。
逆に、これに過度に対応して時間をかけ過ぎてしまうことで、それはそれで、他の患者が医療を受ける機会が制限されてしまうこともあるでしょう。
また、モンスターペイシェントに対応した医療従事者に矛先が行くことで、実際に対応した者が疲弊し、ひいては、退職という人材の流出につながりかねません。

このような事態に陥った場合には、他の患者からの損害賠償請求や、医療従事者による労働災害の申請といった新たなトラブルへの発展に繋がるおそれがあり、病院の運営に深刻な支障が生じかねません。

3 看護師や医師が被害にあってしまった場合は泣き寝入りするしかないのか?

では、このようなモンスターペイシェント問題に対して、どのようにすべきかというと、まずは法的に正しい知識を有することが不可欠です。

前述した応招義務というのは、「診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」というものです。
確かに、医師が診療を拒否したことで患者に損害が生じた場合には、医師に過失があるものと推定されることになります。
しかし、「正当な事由」があるのであれば、当然話は別です。
裁判例の傾向としては、①そもそも診療契約が締結されているのか、②診療契約が締結されていたとしても、信頼関係が破綻しているといえるのか、といった基準によって、正当な事由の有無が判断されている傾向にあります。
もっとも、そもそも診療契約が締結されていないのであれば、応招義務が発生することはありませんので、まずはここが一つのポイントになるでしょう。
次に、信頼関係の破綻の有無という観点については、特に病院内の規律を守らなかったり、医療従事者や他の患者の身の安全を脅かしたり、正常な業務運営を妨害する行為があれば、信頼関係が破綻していると認められやすくなります。
実際、モンスターペイシェントとのトラブルが発生した事案において、医師の応招義務違反を認めた裁判例は見当たりません。
このように、医師の応招義務における「正当な事由」というのは、比較的広くとらえられています。

他方で、客観的に見てどんなに正当な事由があると言える場合であっても、説明義務(医療法1条の4第2項)を果たすに越したことは変わりありません。
しかし、同法における説明義務というのは、あくまで努力義務である上、ここで求められる説明というのも、社会通念上、十分とされる程度のものであれば足りるとされています。
つまり、できるだけ患者やその家族の同意や納得を得るべく説明義務を果たすことは必要ですが、それを越えて実際に同意や納得を得られるようになるまで説明をしなくてはならないというわけではありません。

このように、医師に課せられている応招義務や医療従事者に課せられている説明義務の内容やその範囲を正確に理解し、モンスターペイシェントへ対応することが重要です。

そして、何より重要なのが、病院が一体となって、過剰なまでの「患者至上主義」の考え方を変え、毅然とした態度で対応する方針を取って行くことです。
患者はお客様ではありますが、診療費等を支払って適切な医療の提供を受けるだけの存在であり、それ以上ではありません。
これに対して、病院は、診療費等を受け取って適切な医療を提供するだけの存在です。
このように、病院と患者に上下関係はなく、あくまで対等・公平な関係です。
もちろん、中にはモンスターペイシェントの要求の原因が病院側の落ち度である場合もあるでしょう。
このような場合には、病院としては誠実にお詫びをし、場合によっては必要に応じた賠償をする必要がありますが、それを越えた謝罪をする必要はなく、合理的な範囲内での謝罪をすれば十分です。
もっとも、モンスターペイシェントは、こういった関係を越えて自身の勝手な言い分を病院側に押し付ける考え方を有しています。
したがって、病院側のモンスターペイシェントへの対応の仕方としては、何とか納得してもらうことを目指すのではなく、受け入れる必要がない要求に不必要に付き合わず、諦めさせることを目指しましょう。

そして、このような考え方を病院内全体に浸透させて対応し、他の患者や勤務している医療従事者を守っていくというのも、病院を経営する側の責務と言えるでしょう。

4 モンスターペイシェント問題を弁護士に依頼するメリット

とはいえ、いきなりこのように考え方を変更させるなどして、モンスターペイシェントに対応していくというのは、なかなか困難でしょう。
特に、病院と患者は対等・公平な関係であるという考えを看護師や医療事務員にまで浸透させるのに時間がかかるのは当然と言えば当然です。
そして、応招義務や説明義務を理解はしているつもりであっても、いざ実際にモンスターペイシェントに対応するとなると、自信を持ちきれないということもあるでしょう。

このような場合には、弁護士に依頼することをお勧めいたします。
弁護士は、このようなモンスターペイシェントへの対応について、すべて窓口となって対応することが可能です。
当然、必要に応じて個々のクレーム、トラブルについての相談も承ることが可能で、具体的なアドバイスを受けることが期待できます。
また、病院や医師からモンスターペイシェントに直接説明が必要と考えられる場合には、後にトラブルが生じることを防ぐべく、これに同席し、法的意見を助言することも可能です。
その他、顧問契約を締結した場合には、医療従事者向けの講習を実施したり、未払い診療費の回収業務をしたりすることも可能です。

5 病院・クリニックにおけるモンスターペイシェント問題は当事務所にご相談ください

当事務所では、モンスターペイシェント問題に限らず、これまで医療機関から多様な相談・依頼の実績がございます。
また、顧問契約をいただいた医療機関に向けて、定期的な講習を実施するなどして、医療機関における問題を法的視点でサポートし、弁護士と医療機関が一体となってトラブル発生後だけでなく、トラブルの発生を未然に防いでおります。

病院・クリニックにおけるモンスターペイシェント問題でお悩みの場合には、一度当事務所にご相談ください。

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