この記事を書いた弁護士

弁護士・木村哲也
青森シティ法律事務所 代表・所長
八戸シティ法律事務所 代表

主な取扱い分野は、労務問題(企業側)、契約書、債権回収、損害賠償、ネット誹謗中傷・風評被害対策・削除、クレーム対応、その他企業法務全般です。八戸市・青森市など青森県内全域の企業・法人様からのご相談・ご依頼への対応実績が多数ございます。

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1 降格とは

降格とは、役職や職位、または職能資格や職務等級を下位のものに引き下げることを言います。
例えば、部長から課長に職位を引き下げるなどの対応です。
なお、職能資格制度とは、職務遂行能力を基準に職能資格の格付けをし、その職能資格を持った従業員の中から、資格に対応する役職や職位につく者を決める人事制度です。
また、職務等級制度とは、担当職務の内容に応じて等級化し、等級ごとに賃金額を決める人事制度です。
降格には、①人事権の行使としての降格、②懲戒処分としての降格、③合意による降格の3パターンがあります。

(1)人事権の行使としての降格

人事権の行使としての降格は、人事異動の措置として行われるものです。
例えば、管理能力の不足を理由に部長から課長に格下げするなどの対応です。

人事権の行使としての降格の適法性判断については、後述いたします。

(2)懲戒処分としての降格

懲戒処分としての降格は、非違行為に対する制裁として行われるものです。
例えば、部長の職位にある従業員がパワハラやセクハラ等の不祥事を起こした場合に、懲戒処分として部長の任を解くなどの対応です。

懲戒処分としての降格の適法性判断については、後述いたします。

(3)合意による降格

人事権の行使としての降格および懲戒処分としての降格は、会社の一方的な権限により行われるものです。
一方で、従業員と合意することにより、降格を行うこともできます。

一方的な降格よりは、合意による降格の方が、トラブルに発展するリスクは少ないと考えられます。
ただし、この場合における従業員の同意は、「当該同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することが必要である」と考えられています(東京地方裁判所平成29年5月31日判決【Chubb損害保険事件】)。

具体的には、降格の理由、降格に伴う給与等級の変更および賃金の変更を明確に説明することが求められます。
また、降格による賃金の減額幅が10%を超える場合には、激変緩和措置として調整手当等の名目で支給を行うことが望ましいと考えられます。

従業員との合意は、口約束では後々トラブルに発展した場合に困りますので、降格合意書を作成して書面による合意を行うようにしましょう。
降格合意書の書式をご紹介いたしますので、参考にしていただければと存じます。


【降格合意書】のひな形をダウンロード
降格合意書のひな形

2 人事権の行使としての降格の適法性判断

降格は一般的に賃金の低下等の労働条件の引き下げを伴うことが多いため、その適法性は慎重に判断されています。

(1)適法性の判断基準

まず、人事権の行使としての降格のうち、役職や職位の引き下げは、就業規則等に根拠規定がなくても、労働契約上当然に可能であると考えられています(東京地方裁判所平成7年12月4日判決【バンク・オブ・アメリカ・イリノイ事件】など)。
一方で、職能資格や職務等級の引き下げは、就業規則等における明示的な根拠規定が必要であると考えられています(東京地方裁判所令和5年6月9日判決【日本HP社事件】、広島高等裁判所平成13年5月23日判決【マナック事件】、東京地方裁判所平成12年1月31日判決【アーク証券事件】など)。

そのうえで、人事権の行使としての降格において、会社には広範な裁量が認められますが、①使用者側における業務上・組織上の必要性の有無・程度、②労働者側の帰責性(能力の欠如等)の有無・程度、③労働者が受ける不利益の性質・程度などの事情を考慮し、人事権の濫用があると言える場合には、無効と判断されます(大阪地方裁判所平成22年5月21日判決【大阪府板金工業組合事件】など)。
なお、④使用者側における昇進・降格の運用状況も判断要素とする考え方もあります(東京地方裁判所平成9年11月18日判決【大森記念病院事件】など)。

このような適法性の判断基準に照らし、従業員の能力の欠如等がそれほど深刻ではないにもかかわらず、何等級もの極端な降格を行えば、違法とされる可能性が高いと言えます。
また、退職に追い込むことを目的とする降格、有給休暇の取得など労働者としての正当な権利行使に対する制裁を目的とする降格、妊娠・出産・育児休業の取得等を契機とする降格(男女雇用機会均等法9条3項)などは、違法とされる可能性が高いと考えられます。

(2)裁判例に見る適法性の判断

【東京高等裁判所令和4年1月27日判決:シーエーシー事件】
サービスプロデューサーからチーフプロジェクトマネージャーに降格し(第1降格)、チーフプロジェクトマネージャーから役職がない者に降格する(第2降格)という2段階にわたる降格の適法性が問題となった事案。
第1降格について、会社は当該従業員の売上目標の未達や営業向きではないことを主張するが、当該従業員は目標達成率93%などの評価を得ており、案件受注もしていたと指摘。
また、会社は部門業務をてこ入れする必要のために当該従業員を降格させて他の部門の者をサービスプロデューサーに置いたと主張するが、当該従業員が営業向きでないことを認めることはできず、このような人事の必要性は認められないし、当該従業員が受けた約5.8%の賃金減額の幅は小さくないとして、第1降格を無効とした。
第2降格について、会社は上長への報告や所定の社内承認を怠るなどの問題が生じ、チーフプロジェクトマネージャーの役割を十分に果たしていないと主張するが、こうした主張を裏付ける証拠はなく、そもそも第1降格から第2降格までの間はわずか1か月でしかなく、チーフプロジェクトマネージャーの役割を十分に果たしていないと判断するには短すぎると指摘。
そして、当該従業員が受けた約6.2%の賃金減額の幅は小さくないとして、第2降格を無効とした。

【東京高等裁判所平成28年11月16日判決:ファイザー事件】
専門管理職から一般社員への降格の適法性が問題となった事案。
作業に不備が多く、会議の状況を理解せず進行を妨げるような行為を行い、資料等は不十分なものしか作成することができず、上司の了解や責任者の確認を取らずに資料を他部門に送付することがあり、就業時間中に居眠りをしていることがあり、注意改善指導書や面談による注意指導を受けても改善が見られず、真摯な改善の姿勢を示すことがなかったことから、降格を有効とした。
また、降格により退職年金額が減少することについては、職務遂行能力の欠如により担当職務が能力に見合った水準のものに変更され、賃金も能力に見合った水準のものに減額された結果に過ぎず、退職年金額の減少により降格が無効になるとは言えないとした。

【東京高等裁判所平成21年11月4日判決:東京都自動車整備振興会事件】
副課長から1ランク下の係長への降格の適法性が問題となった事案。
足立支所で支所長に次ぐナンバー2の地位にあって、支所職員の模範となるべき地位にあるにもかかわらず、窓口対応、電話対応の悪さが問題となり、足立ブロックの正副ブロック長会議等で何度も取り上げられるまでに至ったとして、降格の必要性と相当性を肯定した。
そのうえで、1ランク降格するだけのものであり、役職手当上の不利益もわずか本給額の1%の違いに過ぎないこと等を総合し、降格を有効とした。

【東京地方裁判所平成20年2月29日判決:スリムビューティーハウス事件】
エリアマネージャーから店舗マネージャーに降格し(第1降格)、店舗マネージャーからブロック長に降格する(第2降格)という2段階にわたる降格の適法性が問題となった事案。
第1降格について、部下への接し方や指導監督の手法に問題があって、各店舗の人員確保や業務の遂行に支障が生じ、あるいは生じかねない事態が生じており、第1降格にはそれなりの必要性と合理性があるとして、第1降格を有効とした。
一方で、第2降格について、スタッフとの折り合いも悪く、部下への接し方や指導監督の手法が改められていない状況は見受けられるものの、指導や指摘を的確にしないまま配置転換をしただけであり、配置転換も功を奏していないとして、第2降格を無効とした。

【東京地方裁判所平成11年10月29日判決:上州屋事件】
店長から流通センター勤務への降格の適法性が問題となった事案。
暴力事件を含む社内の人間関係、接客態度に問題があり、ルーズな金銭処理を行っていたことなどから、店長として不適格と判断し、金銭を取り扱わず、接客業務もない流通センター勤務へ降格異動したことには、合理的な理由があると認定。
そのうえで、職能給と役職手当を合わせて約9万円の減額となり、不利益は小さくないが、職能等級にして1段階の降格であることや店長としての勤務態度に照らせばやむを得ないと言うほかないとして、降格を有効とした。

【東京地方裁判所平成9年11月18日判決:大森記念病院事件】
看護師長から平看護師への2等級降格の適法性が問題となった事案。
予定表という重要書類の紛失等を理由とする降格は一応理解できなくはないが、予定表の紛失は一過性のものであり、管理職としての能力・適性を全く否定するものとは断じ難いこと、予定表の紛失によって当該病院に具体的な被害は全く発生していないこと、当該病院では近時降格が全く行われていないこと等の事情を総合考慮し、2等級降格しなければならないほどの業務上の必要性があるとは言えないとして、降格を無効とした。

【東京地方裁判所平成7年12月4日判決:バンク・オブ・アメリカ・イリノイ事件】
課長職から課長補佐職相当への降格の適法性が問題となった事案。
赤字基調にあり、厳しい経営環境のもと、部門の合理化と強化などの新経営方針を打ち出したのに対し、当該方針に協力的でなかった管理職を降格したことについて、業務上・組織上の高度の必要性があり、役職手当が4万2000円から3万7000円に減額されるが、人事管理業務を遂行しなくなることに伴うものであるなどとして、降格を有効とした。

(3)役職・職位を限定する合意がある場合

役職や職位を限定して雇用した従業員については、その限定の範囲を超えた降格を一方的に命じることはできません。
このような従業員を降格する場合、当該従業員との合意によることとなります。
合意による降格については、「1 降格とは」の「(3)合意による降格」をご参照ください。

ただし、特定の役職や職位につくことを前提に中途採用した場合であっても、雇用契約書等に役職や職位を限定する旨の記載がなく、あくまで会社の人事制度が適用されることを前提に採用したときは、役職や職位を限定する合意があったとは認められ難いと考えられます。

【東京地方裁判所平成21年4月27日判決:学校法人聖望学園ほか事件】
教員資格は有するものの、教員として稼働した経験がなく、そのマネジメント能力に着目して原告を学校長に招へいしたという経緯は、原告、学園側双方が、原告は学校長として稼働することを想定していたとまでは言い得ても、それによって、使用者の人事権を放棄する法的拘束力を伴う合意が成立していたと解することは困難であるとして、職位限定合意の成立を否定した。

3 懲戒処分としての降格の適法性判断

懲戒処分としての降格についても、その適法性を慎重に検討する必要があります。

(1)懲戒処分の有効要件

懲戒処分の有効要件として、以下の4つの要件を満たすことが必要です。

①就業規則等の根拠と周知
懲戒処分を行うためには、あらかじめ就業規則等に懲戒の種別および事由を定め、労働者に周知されていることが必要です(最高裁判所平成15年10月10日判決【フジ興産事件】)。
そのため、就業規則等に懲戒処分の種類として「降格」が明記され、どのような場合に降格を行うかという「懲戒事由」が定められている必要があり、この就業規則等が労働者に周知されていることが不可欠です。

②懲戒事由の該当性
労働者の行為が就業規則等に定められた降格の懲戒事由に該当する必要があります。

③客観的合理性と社会通念上の相当性
労働者の行為の性質および態様その他の事情に照らし、客観的に合理的な理由があり、社会通念上の相当性があることが必要です(労働契約法15条)。
具体的には、非違行為の重大性と降格による不利益の程度との均衡が求められます。

④就業規則等に定める手続の遵守
就業規則等に弁明の機会付与や懲戒委員会による審議が定められている場合、規定の手続を遵守せずに行った懲戒処分は無効と判断される可能性が高いでしょう。

(2)裁判例に見る適法性の判断

【降格が有効とされた裁判例】

①東京地方裁判所平成27年8月7日判決(M社事件)
部下の能力を否定し、執拗に退職を迫るなどのパワーハラスメントを行った管理職を1等級降格した処分が適法とされた。

②東京地方裁判所平成22年10月29日判決(新聞輸送事件)
タクシー車内で派遣社員のスカートをたくし上げるなどのセクシャルハラスメントを行った管理職を1等級降格した処分が適法とされた。

③東京地方裁判所平成21年8月31日判決(京都電子工業事件)
社内ルールとして定めた作業手順を遵守せず、業務上のミスを報告しなかった管理職について、過去の遅刻や居眠り、工具の無断使用などの勤務態度に照らせば、非管理職とすべく2等級降格して一般社員としたことも不合理ではないとされた。

④東京地方裁判所平成15年9月16日判決(バンダイ事件)
同僚を巻き込んで所得補償保険の不正受給未遂行為を働いたことが、就業規則上の懲戒事由である「刑罰法規に違反する等、社員としてふさわしくない行いがあったとき」、「その他、前各号に準ずる行為があったとき」に該当するものとして、1等級降格した処分が適法とされた。

【降格が無効とされた裁判例】

①神戸地方裁判所令和元年11月27日判決(ノーリツ事件)
業務中にインターネットの私的閲覧を繰り返し、その態様は約5か月半のうち合計86日で、1日当たり15分程度と職務専念からの逸脱の程度は小さくなく、1等級降格による賃金の減少幅が小さく当該従業員の受ける不利益は大きいものとは言えないと指摘。
一方で、インターネットの私的閲覧が業務に与えた影響は大きいとは言えず、当該従業員の等級が係長級に過ぎなかったことからすると、会社に与える影響もそれほど大きいわけではなく、職場秩序を乱すとまでは言えず、これによりサーバーセキュリティ上の危険が生じたわけではないと認定。
そのうえで、降格処分前に当該従業員が懲戒処分を受けたことや勤務成績が不良であったことはうかがえず、当該従業員に対する個別の注意指導等はなく、降格処分以外の減給処分について会社内で十分な検討がされたことはうかがえないことなどを考慮し、降格処分は社会通念上の相当性を欠くと判断。

②東京地方裁判所平成16年9月3日判決(東京医療生協中野総合病院事件)
部下の医師が強いアルコール臭をさせながら医療行為を行っていたことを知りながら管理職として十分な対応をせず、また患者から説明不十分や金銭に関する強い苦情をしばしば寄せられていた内科部長を、医員にまで2等級降格した事案。
部下の医師の問題は病院長らも知っていたにもかかわらず、内科部長だけが懲戒処分の対象となっていること、内科部長自身の問題も従前十分な注意や警告がなされた形跡がうかがわれないこと、月額約23万円の減給となっていることなどの事情を考慮し、医員にまで2等級降格した処分は重きに失するとして、1等級下の医長に降格する限度で有効と判断。

③大阪地方裁判所平成12年8月28日判決(フジシール事件)
就業規則上、懲戒処分の種類として「降格」の記載があるものの、いかなる場合に降格処分となるかという要件が定められていないとして、降格処分が規定に基づかないものであるから無効であると判断された。

④高松高等裁判所平成9年12月19日判決(倉田学園事件)
常勤教諭から任期1年の非常勤講師に降格した処分について、労働契約の同一性を失わせるような変更は原則として許されないと判断した。
一方で、就業規則上、懲戒解雇事由を具備して懲戒解雇を行うことができるときは、例外的にこれを緩和する措置としてこのような降格も許されるものの、懲戒解雇事由を具備しないとして、降格処分を無効とした。

4 降格における注意点

以上のように、従業員の降格を行う際には、人事権の行使としての降格の適法性判断基準、懲戒処分としての降格の有効要件に照らし、慎重に判断することが大切です。

【人事権の行使としての降格の適法性判断基準】
①使用者側における業務上・組織上の必要性の有無・程度
②労働者側の帰責性(能力の欠如等)の有無・程度
③労働者が受ける不利益の性質・程度
(④使用者側における昇進・降格の運用状況)
などの事情を考慮し、人事権の濫用に当たるものではないか?
(詳しくは、「2 人事権の行使としての降格の適法性判断」を参照)

【懲戒処分としての降格の有効要件】
①就業規則等の根拠と周知
②懲戒事由の該当性
③客観的合理性と社会通念上の相当性
④就業規則等に定める手続の遵守
(詳しくは、「3 懲戒処分としての降格の適法性判断」を参照)

また、降格の根拠となる事実関係の立証についても、注意が必要です。
例えば、漠然と「管理職としての適性に欠ける」などというだけではなく、より具体的に「定期人事評価でどのような評価を受けたか?その評価に客観性・合理性があるか?」、「具体的にどのような能力が欠如しているか?会社側が注意・指導を行ったか?注意・指導による改善は見られないか?」、「どのような問題行為があったか?業務や職場秩序にどのような影響を与えたか?」などの事実関係を裏付ける証拠が揃っていることが重要です。
この点、指導書、注意書、指導記録票、始末書、事情聴取書などが有力な証拠となり得ますので、次の関連コラムもご参照いただければと存じます。

【関連コラム】
●問題社員対応における指導書・注意書・懲戒処分通知書・退職合意書・解雇通知書等の書式

そして、合意による降格を行う際には、降格の理由、降格に伴う給与等級の変更および賃金の変更を明確に説明することが必要であり、降格による賃金の減額幅が大きい場合には、激変緩和措置として調整手当等の名目で支給を行うことが望ましいと言えます。
従業員との合意は、トラブル回避のため、書面による合意を行うようにしましょう。
詳しくは、「1 降格とは」の「(3)合意による降格」をご参照ください。

5 降格に伴う賃金の減額

なお、降格により、基本給や手当が減額となることが多いと考えられます。
この点、賃金の減額の適法性は、降格の適法性とは別途問題となり得ます。
賃金の減額の適法性については、次の関連コラムをご参照ください。

【関連コラム】
●【従業員との合意】【就業規則等改定】従業員の賃金を減額する場合の法律上の注意点【配置転換】【降格】【人事考課】

6 労務問題については当事務所にご相談ください

降格は法的トラブルに発展することもありますので、降格を行う際には慎重にご判断いただくことが大切です。

降格を含む労務問題についてお困りのことがありましたら、当事務所にご相談いただければと存じます。

記事作成弁護士:木村哲也
記事更新日:2026年10月6日

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