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弁護士・木村哲也
代表弁護士

主な取扱い分野は、労務問題(企業側)、契約書、債権回収、損害賠償、ネット誹謗中傷・風評被害対策・削除、クレーム対応、その他企業法務全般です。八戸市・青森市など青森県内全域の企業・法人様からのご相談・ご依頼への対応実績が多数ございます。

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1 はじめに

「警察から会社に連絡があり、従業員が逮捕されたことが分かった」
「従業員の家族から会社に連絡があり、従業員が逮捕されたことを知らせてきた」

従業員を雇用して事業を行う会社では、自社の従業員が逮捕されてしまうという事態も起こり得ます。
この時、会社としてはまずどのように対応すればよいのか?逮捕された従業員を解雇してもよいのか?など、様々な問題に直面することとなります。

今回のコラムでは、従業員が逮捕された場合の会社の初動対応、逮捕された従業員を支援する場合、逮捕された従業員の解雇・懲戒処分といった諸問題について、解説いたします。

2 従業員が逮捕された場合の会社の初動対応

(1)事実関係の把握

まずは、事件に関する情報収集です。
逮捕された従業員がどのような事件を起こしたのかを把握しましょう。
業務中の事件であれば、使用者責任(民法715条)により会社が被害者に対して損害賠償責任を負う可能性があります。

事件の情報や従業員の留置場所は、警察から連絡があった場合には警察に確認すればよく、そうでない場合には家族が知っていることも多いです。
また、事件に関する従業員本人の認識(犯罪行為を認めるのか?認めないのか?)、身柄拘束中の有給休暇の消化や退職の意向の確認なども必要ですので、逮捕された従業員と面会するようにしましょう。

逮捕された従業員との面会は、逮捕が勾留に切り替わるまでは(逮捕から72時間以内に切り替わります。無実や嫌疑不十分などの理由により、勾留されずに釈放となることもあります)、弁護士以外の者は原則として面会することができません。
また、勾留に切り替わったあとも、犯罪の内容等によっては裁判所が接見禁止の処分をすることがあり、そうなると引き続き弁護士しか面会することができません。

逮捕された従業員との面会が難しい場合、弁護士が選任されているのであればその弁護士に連絡し、逮捕された従業員とのやり取りを仲介してもらうことが考えられます。
ただし、弁護士は守秘義務を負っているため、会社が知りたい情報を全て教えてくれるとは限りません。

(2)社内対応

逮捕された従業員は、身柄拘束中は出社ができず、業務に服することもできません。

警察官が逮捕をした場合、48時間以内に、逮捕した者を釈放するか、事件を検察官に引き継ぐ(送検する)かを判断しなければなりません。
送検された場合、検察官は送検から24時間以内、かつ逮捕から72時間以内に裁判所に勾留請求をしない限り、逮捕した者を釈放しなければなりません。
そして、勾留が認められた場合、最大で20日間の身柄拘束が続くこととなるため、逮捕から起訴・不起訴の判断までに最大で23日間身柄を拘束されることとなるのです。
その後、起訴されれば、身柄拘束の期間がさらに伸びることとなります。

このように、逮捕された従業員の身柄拘束が長引けば、業務に支障が生じることもあります。
このような場合には、逮捕された従業員と面会する、あるいは弁護士を仲介してやり取りをすることにより、業務の引き継ぎのために必要な情報を確認するという対応を検討するべきでしょう。

(3)身柄拘束中の勤怠・賃金

逮捕された従業員は、身柄拘束中は出勤することができませんので、勤怠や賃金の取り扱いをどうするか?という問題があります。

この点、身柄拘束中は労務の提供がありませんので、ノーワークノーペイの原則により、会社は賃金を支払う必要はないと考えられます。
ただし、逮捕された従業員が有給休暇の申請をした場合には、会社はこれに応じる必要があります。
一方で、従業員の意向を確認せずに会社が一方的に有給休暇扱いとすることはできませんので、逮捕された従業員の意向確認が必要となります。

また、就業規則に起訴休職制度(刑事事件により起訴された場合に休職を命じる制度)が定められている場合には、休職を命じたうえで賃金を不支給とすることが考えられます。
起訴休職制度の適用は、逮捕された従業員が起訴後に保釈された場合などが想定されますが、裁判例によれば、「起訴休職に付することができるのは、その従業員が起訴されたこと、または起訴後も引き続き就労することにより、会社の対外的信用が失墜し、または職場秩序の維持に障害が生じるおそれがある場合、あるいはその従業員の労務の継続的な提供や企業活動の円滑な遂行に障害が生じるおそれがある場合に限られる」と考えられていることには、注意が必要です(東京地方裁判所平成15年5月23日判決。なお、同判決では、「特別の事由があって休職させることを適当と認めたとき」という包括的な休職規定を根拠に起訴休職を命じ得ると判断しています)。

起訴休職を命じたことが不当(無効)と判断される場合、休職期間中の賃金の支払義務が認められてしまいます。
そこで、会社としては、起訴された従業員から休職願の提出を受け、会社がこれを認めるという形を作ることにより、「自己都合による休職であるため、賃金は発生しない」という処理をするのが安全であると考えられます。

(4)マスコミ・報道機関対応

従業員の逮捕が報道された場合、会社としては、事件の内容いかんにより、外部に対し、コメントを出すことが求められることもあります。

特に会社の業務に関連して行われた犯罪行為である場合には、できる限り早くコメントを出した方がよいことが多いでしょう。
対応が遅れれば、会社に対する不信感や不安を招くおそれがあるためです。

ただし、逮捕後間もなくの時期で事件の内容も分からない段階であれば、従業員が犯罪行為を行ったことを断定するような表現は避け、簡潔な内容にとどめておくことが適切であると言えます。
また、業務と関連性のない私生活上の犯罪行為であれば、会社があえてコメントを出す必要があるケースは少ないと言えるでしょう。

3 逮捕された従業員を支援する場合

逮捕された従業員が会社にとって必要な人材である場合など、会社がその従業員を支援することも考えられます。
このような場合には、会社としては、その従業員の刑事弁護を担当する弁護士を依頼することを検討することになるでしょう。
刑事弁護については、当事務所の刑事事件サイトで情報発信を行っておりますので、ご覧になってみてください。

刑事事件サイトはこちら

逮捕された従業員の刑事弁護を会社の顧問弁護士に依頼する場合には、会社とその従業員との利害対立について注意が必要です。
例えば、会社として、逮捕された従業員の刑事弁護を顧問弁護士に依頼する一方で、その従業員の処遇(懲戒処分等)について顧問弁護士に相談するような場合には、会社とその従業員との利害対立が発生していると言えます。
このように利害が対立する者同士の双方に弁護士が介入することは、依頼者の最善の利益を守るという弁護士の職業倫理上、問題があると判断される可能性があります。
このような場合には、逮捕された従業員の刑事弁護は、顧問弁護士とは別の弁護士に任せるのがよいでしょう。

4 逮捕された従業員の解雇・懲戒処分

(1)プライベートでの犯罪行為と解雇・懲戒処分

勤務時間外の私生活上の犯罪行為について、解雇・懲戒処分の対象になるか?という問題があります。

この点、プライベートでの犯罪行為であっても、会社の社会的評価を毀損し、業務に悪影響を及ぼす場合には、解雇・懲戒処分の対象になると考えられます。
例えば、従業員が勤務時間外に面識のない女性に対する不同意わいせつ行為を行ったことにより逮捕されたところ、会社に始末書・顛末書を提出して事実関係を認め、被害者女性に解決金を支払って示談を成立させたことにより最終的に不起訴処分となった事案において、会社が上記行為を理由に行った懲戒解雇を有効とした裁判例(東京地方裁判所令和6年10月25日判決)などがあります。
この裁判例では、懲戒解雇の有効性の判断において、社会的な影響の大きさ、犯罪の悪質性、報道による会社の信用失墜などの点を重視しました。

このように、勤務時間外の私生活上の犯罪行為も解雇・懲戒処分の対象になり得るのですが、特に解雇のような重い処分については、慎重に検討するべきであると考えられます。
業務と関連性のない軽微な犯罪行為に対して重い処分をすれば、後々トラブルになった際に不当(違法)と評価される可能性もあります。

(2)逮捕を理由とする解雇・懲戒処分

逮捕を理由として従業員を解雇・懲戒処分することは、ケースによっては可能であると考えられます。
そして、業務に関連する犯罪行為はもちろんのこと、プライベートでの犯罪行為であっても、会社の社会的評価を毀損し、業務に悪影響を及ぼす場合には、解雇・懲戒処分の対象になります。

ただし、解雇・懲戒処分を行うためには、そのような処分に値する非違行為の存在が裏付けられていることが前提となります。
そのため、逮捕された従業員が犯罪行為を認めている場合には、早い段階で事実関係を記載した始末書・顛末書を提出させることが推奨されます。
身柄の拘束が続いているのであれば、始末書・顛末書を留置場所に持参して面会し、サインをさせるという対応が考えられます。
一方で、有罪判決が確定するまで待てば、それで非違行為の存在が裏付けられることになりますが、事件が不起訴となる可能性も想定しなければなりません。

そして、特に解雇を行う場合には、後々不当解雇をめぐるトラブルに発展するおそれがありますので、慎重な判断が必要です。
犯罪行為の業務との関連性の有無・程度、犯罪行為の重大性・悪質性、会社の社会的信用の毀損の有無・程度、会社の業務に対する悪影響の有無・程度などを考慮し、解雇に踏み切るかどうかを判断することになるでしょう。

懲戒処分には戒告、降格、減給など、解雇よりも軽い処分があり、解雇に値するとまでは言えない場合、不当解雇をめぐるトラブルを避けたい場合などには、解雇以外の処分を選択することになるでしょう。
また、逮捕された従業員に対して自主的な退職を求め、退職届を提出させることにより雇用契約を解消する「退職勧奨」という方法もあります。
身柄を拘束されている従業員から退職届を取り付けるためには、退職届の用紙を留置場所に持参して面会し、サインをさせるという対応が考えられます。

(3)有罪判決が出る前の解雇・懲戒処分

法律上、逮捕あるいは起訴された場合であっても、有罪判決が確定するまでは無罪であることが推定されます。
そのため、有罪判決が確定するまでは犯罪行為があったと断定することはできず、有罪判決が出る前の解雇・懲戒処分にはリスクがあります。
すなわち、逮捕後に無実や嫌疑不十分により釈放された場合、あるいは起訴されたものの無罪判決となった場合には、解雇・懲戒処分が前提を欠くものとして無効とされる可能性があるのです。

そのため、有罪判決が出る前に解雇・懲戒処分を行う場合には、事実関係を十分に把握したうえで、犯罪事実を裏付ける証拠を確保しておくことが大切です。
証拠の確保としては、前述したように、犯罪事実を認める内容の始末書・顛末書を提出させる(身柄拘束されている場合には始末書・顛末書を持参して面会し、サインさせる)ことが考えられます。
また、前述したように、退職勧奨を行って退職届を提出させる(身柄拘束されている場合には退職届の用紙を持参して面会し、サインさせる)ことにより、解雇という形をとらずに雇用関係を解消することも考えられます。

(4)不起訴・無罪となった場合の対応

刑事裁判の判決が出る前に刑事事件を起こしたことを理由に解雇・懲戒処分をしたものの、後日、無罪判決が出されるということもあり得ます。
また、逮捕されたものの、無実や嫌疑不十分により不起訴となることも考えられます。

このような場合には、解雇・懲戒処分の前提を欠くこととなりますので、当該解雇・懲戒処分を撤回する必要がある場合もあるでしょう。

なお、前述した起訴休職が有効である場合、後に無罪判決が確定しても、起訴休職が遡って無効となるわけではなく(東京地方裁判所昭和62年9月22日判決)、会社は遡って賃金を支払う必要はないと考えられます。

(5)解雇と退職金の支給・不支給

逮捕された従業員を解雇した場合、退職金の支給・不支給をどうするか?という問題があります。

この点、会社の退職金規程において、「懲戒解雇の場合には退職金を不支給とする」旨が定められている例も多く見られます。
しかし、「懲戒解雇であるという理由だけでは、退職金を不支給または減額とすることはできない」と判断している裁判例が多いです。

退職金は賃金の後払いの性質を持つと考えられているところ、多くの裁判例では、「過去の勤続の功を抹消または減殺するほどの著しい背信行為があった場合でなければ、退職金を不支給または減額とすることはできない」という判断が示されているのです。

このような裁判例の考え方によれば、退職金を不支給または減額とするためには、①退職金規程等に退職金の不支給事由や減額事由が明記されていること、および②退職者に著しい背信行為があったことが条件になると考えられます。

退職金の支給・不支給の問題についても、後々トラブルになる可能性がありますので、慎重に判断することが必要です。

5 従業員が逮捕された場合の会社の対応は当事務所にご相談ください

当事務所では、これまでに、従業員が逮捕された場合の対応について、地域の企業様からご相談・ご依頼をお受けしてきた実績がございます。

従業員が逮捕された場合の対応についてご不明のことがありましたら、当事務所にご相談いただければと存じます。

記事作成弁護士:木村哲也
記事更新日:2026年5月27日

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