この記事を書いた弁護士

弁護士・木村哲也
代表弁護士
主な取扱い分野は、労務問題(企業側)、契約書、債権回収、損害賠償、ネット誹謗中傷・風評被害対策・削除、クレーム対応、その他企業法務全般です。八戸市・青森市など青森県内全域の企業・法人様からのご相談・ご依頼への対応実績が多数ございます。
1 はじめに
病気・怪我をしている従業員の解雇に関するご相談をいただくことがあります。
病気・怪我が原因で業務に堪えないということであれば、解雇を検討しなければならないケースもあるでしょう。
しかし、病気・怪我を理由とする解雇について、不当解雇と判断された裁判例も少なくありませんので、慎重な判断が求められます。
裁判で不当解雇であると認定されると、当該従業員を復職させるほかに、解雇時点に遡って賃金を支払うように命じられるのが通常であり、十分に注意しなければなりません。
以下では、従業員の病気・怪我を理由とする解雇の問題について解説いたしますので、参考にしていただければと存じます。
2 病気・怪我を理由とする解雇に関する法的ルール
病気・怪我を理由とする解雇は、私傷病(業務以外の原因による傷病)なのか、あるいは業務上の病気・怪我なのかにより、法的ルールが異なります。
こうした法的ルールの違いについて、以下で整理いたします。
(1)私傷病の場合
私傷病により業務に従事できない場合、まずは就業規則に従って休職させることとなります。
そして、休職期間中に復職可能な状態に回復した場合には、復職させます。
一方で、休職期間が満了するまでに復職可能な状態にならなければ、解雇が可能となります。
(2)業務上の病気・怪我の場合
業務上の病気・怪我で休業する場合、療養のために休業する期間とその後30日間は、原則として解雇してはならないとされています(解雇制限。労働基準法19条1項本文)。
3 私傷病の場合の解雇
以下では、私傷病の場合の解雇について、ご説明いたします。
(1)まずは休職させる
私傷病により業務に従事できない場合、まずは就業規則に従って休職させる必要があります。
休職させずにいきなり解雇すれば、不当解雇となってしまいます。
(2)休職期間が満了するまでに復職可能となれば復職させる
休職期間中に療養に努め、復職可能な状態に回復すれば、復職させる必要があります。
復職可能な状態であるのに解雇すれば、不当解雇となります。
(3)休職期間が満了するまでに復職できない場合は解雇する
休職期間を満了しても復職可能な状態とならないことを理由とする解雇は、適法であると判断されます。
就業規則では、休職期間の経過後も復職できない場合には退職扱いとする旨が定められていることが多いですが、このような規定は有効です。
(4)復職が可能であるのに解雇すると不当解雇になる
休職期間が満了するまでに復職可能となれば、復職を受け入れる必要があります。
復職可能かどうかを判断するために、医師の診断書の提出を求めるのが通常の取り扱いです。
そして、医師が復職可能であると判断しているのに解雇すれば、不当解雇となる可能性が高いです。
(5)業務軽減などの配慮をすれば復職できるのに解雇すると不当解雇になる
復職にあたり業務を軽減するなど一定の配慮をすれば復職が可能であれば、復職を受け入れる必要があります。
例えば、復職後しばらくは別の職種につかせたり、別の部門に配置したりすることなどが考えられます。
このように一定の配慮をすれば復職可能であるのに解雇してしまうと、不当解雇と判断されます。
4 業務上の病気・怪我の場合の解雇
以下では、業務上の病気・怪我の場合の解雇について、ご説明いたします。
(1)解雇制限
業務上の病気・怪我で休業する場合、療養のために休業する期間とその後30日間は、原則として解雇は違法となります(労働基準法19条1項本文)。
これを解雇制限と言います。
業務上の病気・怪我は企業にも責任があると考えられていることから、このような解雇制限のルールが存在するのです。
(2)業務上の病気・怪我であっても解雇できる場合
業務上の病気・怪我であっても、以下の場合には解雇が認められます。
①療養の終了後30日以上が経過した場合
②1200日分の打切補償を支払った場合(労働基準法19条1項ただし書きにより、療養の開始後3年を経過しても業務上の病気・怪我が治らないときは、平均賃金の1200日分の打切補償を行うことにより、解雇することが認められます)
③労災保険の傷病補償年金の給付を受けている場合(労災保険法19条により、療養の開始後3年を経過した日において傷病補償年金を受給している場合または同日後において傷病補償年金を受給することとなった場合には、当該3年を経過した日または傷病補償年金を受給することとなった日において、打切補償を支払ったものとみなされます)
ただし、上記に該当する場合であっても、解雇には客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められるとするルール(労働契約法16条)の適用を受けることは忘れてはなりません。
例えば上記①の場合において、治療の終了後30日以上が経過すれば自由に解雇ができるということにはなりませんので、注意が必要です。
5 非違行為など病気・怪我以外の解雇事由に該当する場合
病気・怪我をしている従業員の解雇に関するご相談においては、病気・怪我以外に非違行為など解雇事由となり得る事情も存在するという例も見られます。
昨今では、病気・怪我をしている従業員はまず休職させるべきことなど、基本的なルールをある程度理解している企業様も多いです。
そんな中、実際に弁護士のもとに持ち込まれる相談事例としては、このような複合的な事情のものも少なからず見られるように思います。
この点、私傷病の場合には、非違行為など病気・怪我以外の事情について、就業規則に定める普通解雇事由・懲戒解雇事由に該当するかどうか、そして解雇について客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性があるか(労働契約法16条)という観点から、解雇の可否を検討していくこととなります。
一方で、業務上の病気・怪我の場合には、非違行為など病気・怪我以外の事情について、基本的には上記の私傷病の場合と同様の検討を行っていくことになるのですが、前述した解雇制限には注意しなければなりません。
すなわち、たとえ懲戒解雇事由に該当する場合であっても、解雇制限を免れるわけではありませんので、基本的には療養の終了後30日以上が経過した後に解雇の処理とせざるを得ないでしょう。
6 退職勧奨について
病気・怪我をしている従業員に対し、退職勧奨をすること自体は違法とはなりません。
ただし、退職勧奨は、従業員の自由な意思形成を不当に妨げるものであってはなりません。
休職制度があることを教示せずに強引に退職届を書かせるなどすれば、後々退職の効力が争われるおそれがあります。
また、拒否しているのに何度も退職を求めるなど、従業員の自由な意思形成を不当に妨げる態様のものは、違法な退職勧奨であると判断され、後々退職の効力を否定されることもありますので、注意が必要です。
特にうつ病などの精神疾患の場合には、後々強迫されたなどと主張されないように、交渉経過を逐一録音や書面に残すなどの慎重な対応が推奨されます。
7 病気・怪我を理由とする解雇は当事務所にご相談ください
以上のように、病気・怪我を理由とする解雇には複雑な法的ルールがあり、不当解雇と判断されるリスクは非常に大きいものであるため、慎重な対応が求められます。
このような問題についてお悩みの企業様がいらっしゃいましたら、解雇・労務の問題について経験豊富な当事務所に是非ご相談ください。
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