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弁護士・山口龍介
八戸シティ法律事務所 所長
主な取扱い分野は、労務問題(企業側)、契約書、債権回収、損害賠償、ネット誹謗中傷・風評被害対策・削除、クレーム対応、その他企業法務全般です。八戸市・青森市など青森県内全域の企業・法人様からのご相談・ご依頼への対応実績が多数ございます。
1 出社・出勤拒否とは?
出社・出勤拒否とは、従業員が何らかの理由で会社に行かなくなったり、行くことができなくなったりする状態をいいます。
出社・出勤拒否の状態としては、大きく分けて、以下の2種類が考えられます。
【出社・出勤する意思がなく職場に行かない状態】
・モチベーションの低下、ただやる気がない、サボりなどの場合
【出社・出勤する意思があるが職場に行くことができない状態】
・うつ病や適応障害など精神疾患が理由の場合
・家族の病気、介護などが理由の場合
・復職後トラブルが理由の場合
・パワハラ、セクハラ、人間関係の悪化、過重労働など職場環境が理由の場合
特に個人的理由(職務怠慢)で出社・出勤を拒否する従業員がいますと、他の従業員にも悪影響を及ぼしてしまいますので、そのまま放置するのではなく、適切な対応が必要になります。
2 拒否理由によって対応は変わる?
従業員には、労働契約に基づいて労務を提供する義務がありますので、正当な理由なく出社・出勤を拒否することは、業務命令違反となります。
そして、多くの会社では、業務命令違反を懲戒処分ができる場合の一つとして就業規則で定めています。
したがって、出社・出勤拒否に対しては懲戒処分をすることが可能であるように思われます。
もっとも、懲戒処分をするには、「客観的に合理的な理由」があることと、「社会通念上相当」であることが必要とされています(労働契約法第15条)。
そのため、個々の従業員の出社・出勤拒否の理由を確認して、懲戒処分ができる可能性があるケースか、懲戒処分ができないケースか、を考える必要があります。
つまり、従業員による出社・出勤拒否があった場合、出社・出勤拒否の理由に応じて対応が変わってくることになります。
このことについて、次に解説いたします。
3 懲戒処分ができないケース
以下では、まず、懲戒処分ができないケースについて解説いたします。
(1)うつ病を含む精神疾患が理由の場合
出社・出勤拒否の理由がうつ病を含む精神疾患である場合には、懲戒処分をするのは難しいです。
会社は、一般的に、従業員の安全へ配慮する義務を負っています(安全配慮義務)。
従業員がうつ病などの精神疾患を理由に出社・出勤を拒否している場合、会社側としては原則として従業員を休ませなければなりません。
特に、その従業員に長時間労働を指示していたために精神疾患を発症した場合など、発症そのものが会社の責任であることも考えられますので、慎重な対応が必要になるでしょう。
そして、精神疾患を発症した従業員を強制的に出社させるような業務命令は、そもそも安全配慮義務に照らして不合理な業務命令となるため、この業務命令に違反したとしても、懲戒処分の根拠として合理性を欠くことになります。
ただし、会社は従業員に対して診断書の提出を求めて、従業員が本当にうつ病などの精神疾患なのかどうかについて確認することは可能です。
病名だけではなく、「就業が可能かどうか」ということも重要なポイントですので、就業の可否を記載した診断書の提出を従業員に求めることが必要になります。
そして、診断書で長期的な自宅療養が必要とされている場合は、従業員に対して休職を命じることが正しい対応です。
引き継ぎの必要性や業務の多忙さを理由に無理して働かせてしまうと、安全配慮義務違反を理由として訴えられてしまうリスクもありますので慎重に対応します。
なお、診断書の提出を求めてもこれに応じない場合は、出社・出勤拒否を認める必要はありません。
仮に説得しても診断書の提出にも応じず、出社・出勤拒否を続ける場合は、最終的に従業員を解雇することも含めて懲戒処分を検討することになります。
(2)家族の病気、介護などが理由の場合
出社・出勤拒否の理由が家族の病気、介護などを理由とする場合も、懲戒処分をするのは難しいです。
家族の突然の病気により、介護や看護が必要になって、有給も使い果たし、さらに介護・看護によって心身ともに疲弊して、出社・出勤できなくなってしまうケースもあるでしょう。
家族の病気、介護などはやむを得ない事情であり、サボりなどと同一視できません。
ここで懲戒処分をすると、その懲戒処分は「客観的に合理的な理由」がないとされたり、「社会通念上相当」とはいえないとされたりする恐れがあります。
ここでは、いきなり懲戒処分を検討するのではなく、介護休暇、看護休暇などを適切に取得できるようサポートし、復職に向けて道筋を立てられるようにフォローするのがよいでしょう。
(3)復職後トラブルが理由の場合
病気で休んでいた従業員の体調が改善して働けるようになったとの診断書を提出した後に、復職後の勤務をめぐって会社とトラブルになり、出社・出勤拒否に至るケースも少なくありません。
従業員が病気から復帰する場面では、会社は、病気の内容に応じて復職にあたり一定の配慮をする義務があります。
例えば、短時間勤務、軽作業や定型業務への従事、残業や深夜業務の禁止、試し出勤などの配慮をすることが考えられます。
これらの配慮をすることなく業務を命じ、再び体調を崩して出社・出勤拒否に至った場合には、これに対して懲戒処分をするのは難しいでしょう。
一方で上記のような配慮をしても、出社・出勤を拒否する場合は、会社として必要な配慮はしており、出社・出勤拒否は認められないことを従業員に説明して、説得することが正しい対応です。
そして、それでも従業員が説得に応じず、出社・出勤拒否を続ける場合は、懲戒処分することを検討してよいでしょう。
(4)ハラスメントを含む職場環境トラブルの場合
パワハラやセクハラなど、会社側に責任のある事情で従業員が出社・出勤拒否に至った場合には、懲戒処分をすることは難しいです。
この場合、そもそもの責任が会社側にあるわけですから、会社はまずハラスメントの有無を調査し、ハラスメントがある場合は、その問題を解消することが求められます。
ただし、会社側で十分な対策を講じたにもかかわらず、それでも出社・出勤を拒否するようであれば、出社・出勤拒否をする従業員に対して懲戒処分を検討してよいでしょう。
4 懲戒処分ができる可能性があるケース
以上、懲戒処分ができないケースを見てきましたが、反対に、懲戒処分ができるのはどのような場合か見ていきましょう。
(1)個人的理由(職務怠慢)の場合
例えば、ただやる気がないサボりとか、恋人とデートしたいから、新発売のゲームで遊びたいから、などの個人的理由(職務怠慢)で出社・出勤を拒否している場合には、懲戒処分できます。
ただし、プライベートの用件であっても、親族に不幸があった場合など、従業員の立場に立ったときにやむを得ないと言える場合で、会社が特に配慮すべきケースもないわけではありません。
このような場合であれば、懲戒処分に合理性が認められないことも考えられます。
したがって、プライベートの理由による出社拒否であっても、懲戒処分が認められる場合かどうか、ケースバイケースで判断する必要がありますので注意しましょう。
(2)拒否理由が虚偽申告の場合
従業員が申告した出社拒否の理由が虚偽であると判明した場合は、そもそも出社・出勤拒否には理由が存在しなかったことになりますので、懲戒処分できる状況です。
例えば、家族の病気による介護を理由に従業員が出社・出勤拒否をしていたにもかかわらず、SNSの写真から海外旅行に行っていることが判明した場合が考えられます。
さらにいえば、会社に対して嘘の申告をした事自体も、業務命令に反する悪質な行為ですから、懲戒処分の合理性・相当性が認められやすくなるでしょう。
5 解雇は可能?条件はある?
解雇は、従業員との雇用契約を解消するという重大な処分になりますので、あくまでも最終手段として行う必要があります。
他にとり得る手段がある場合には、解雇が無効になるリスクもありますので慎重に進めていくことが重要です。
出社・出勤拒否が続く従業員に対して解雇を考慮する場合、最初に確認すべき重要な事項は、欠勤の日数が解雇を正当化する範囲内にあるかどうかです。
一般的に、裁判所において無断欠勤に基づく解雇が有効とされる目安は、約2週間以上です。
したがって、出社・出勤拒否を理由とする解雇を進める際には、まずは出社・出勤命令を行い、その後の日数経過を観察することが肝心です。
その上で、「客観的に合理的な理由」があるかどうか、「社会通念上相当」であるかどうかが要求されることになります。
6 出社・出勤拒否をする従業員への対応の流れ
出社・出勤拒否をする従業員への対応は、まず本人と話し合い、その理由を把握することから始めます。
正当な理由がある場合は、うつ病などの精神疾患であれば休職を認めたり、ハラスメントなど職場環境の問題であれば解決策を講じたりします。
理由が正当でない場合は、出社・出勤命令を出しますが、それでも従わない場合は、就業規則に基づき懲戒処分を検討し、改善が見られない場合は退職勧奨、最終的には解雇も視野に入れます。
以上を前提に、対応方法の流れを見ていきましょう。
【出社・出勤拒否に対する対応の流れ】
①連絡・話し合い
まず、電話やメールなどあらゆる手段で従業員本人に連絡し、安否確認と出社・出勤拒否の理由を丁寧にヒアリングします。
理由を聞き、会社として取り組むべき問題(例:職場環境)がないか確認します。
↓
②理由に応じた対応
〈正当な理由がある場合〉
病気・怪我の場合は、診断書提出を求め、長期療養が必要な場合は休職を命じ、復職時は、必要な配慮を約束して、出社を促します。
ハラスメントの場合は、会社として事実調査を行い、問題があれば解消し、適切な対応を取ったことを従業員に説明して、出社に向けて話し合います。
〈正当な理由がない場合〉
出社・出勤拒否が認められないことを説明し、説得に努めます。
↓
③出社命令
話し合いで解決せず、出社・出勤拒否が続く場合は、出社・出勤命令を出します。
メールや書面(内容証明郵便など)で正式に通知し、記録を残すことが重要です。
↓
④懲戒・処分
出社・出勤命令に従わない場合、就業規則に「出社・出勤拒否」が懲戒事由として定められていれば、懲戒処分を検討します。
いきなり重い処分ではなく、まずは戒告や譴責などの軽い処分から段階的に行います。
↓
⑤退職勧奨・解雇
懲戒処分を重ねても改善が見られない場合は、退職勧奨を行います。
退職勧奨にも応じない場合は、解雇を検討します。
解雇は「客観的に合理的な理由」が必要であり、慎重な事実確認と判断が求められます。
7 出社・出勤拒否をする従業員への対応を怠るリスク
従業員の出社・出勤拒否への対応を怠ると、業務への支障や他の従業員への悪影響など、会社にとって様々なリスクがあります。
すなわち、出社・出勤拒否の従業員の業務が停滞し、他の従業員がその分の業務をカバーする必要が生じるなど、業務全体に悪影響を及ぼします。
また、個人的理由(職務怠慢)で出社・出勤拒否する従業員が放置されている状況は、真面目に働いている他の社員の不満や不信感につながり、職場の雰囲気や士気を著しく悪化させ、結果として生産性も低下する可能性があります。
さらに、出社・出勤拒否の背景に長時間労働、パワハラ、その他の職場環境の問題がある場合、会社がその状況を放置すると安全配慮義務違反(ハラスメント防止措置義務違反)に問われるというリスクがあります。
8 出社・出勤拒否をする従業員への対応を弁護士に依頼するメリット
出社・出勤拒否をする従業員への対応を弁護士に依頼するメリットは、法的なリスクを回避しつつ、冷静かつ円満な解決を図れることです。
法律の専門家である弁護士が間に入ることで、感情的な対立を抑え、冷静に交渉を進めやすくなります。
また、会社側の不用意な対応が不当処分、不当解雇と判断されるリスクを減らせます。
弁護士は、懲戒処分や解雇に必要な要件や手続に精通しており、就業規則などを確認した上で、後々処分が違法であったと主張されることを防ぎます。
とくに解雇については、法的な観点から解雇が有効となるための「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」を満たすかを慎重に確認した上で対応します。
さらに、万が一トラブルが長引いた場合でも、労働審判や裁判などの法的手続に適切に対応できます。
従業員が労働審判や訴訟を起こした場合、弁護士が企業の代理人となり、主張書面の提出や証拠の収集など、専門的かつ迅速な対応を行うことができます。
9 従業員トラブル、問題社員対応は当事務所にご相談ください
出社・出勤拒否をする従業員への対応をはじめ、従業員トラブル、問題社員対応は当事務所にご相談ください。
当事務所は、法的根拠に基づいた専門的なアドバイスとともに、労務問題の専門家として、個別の状況に合わせた具体的な解決策を提案します。
記事作成弁護士:山口龍介
記事更新日:2025年12月15日
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