弁護士・木村哲也
代表弁護士

主な取扱い分野は、労務問題(企業側)、契約書、債権回収、損害賠償、ネット誹謗中傷・風評被害対策・削除、クレーム対応、その他企業法務全般です。八戸市・青森市など青森県内全域の企業・法人様からのご相談・ご依頼への対応実績が多数ございます。

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はじめに

有期雇用契約の更新時に、賃金を減額するなど労働条件を不利益に変更することを検討される企業様もいらっしゃいます。
労働日数・労働時間を減らすことにより、それに見合う賃金の減額が発生する変更を検討される企業様もいらっしゃいます。
この場合、事案によっては、賃金の減額など労働条件の変更が認められず、従前と同一の条件で契約が更新されてしまう、という事態もあり得ますので、注意が必要です。

今回のコラムでは、有期雇用契約の更新時に賃金を減額する場合の注意点について、ご説明させていただきます。

1 有期雇用契約の更新時に労働条件を変更することは可能か?

有期雇用契約は、一定期間ごとに契約期間が満了となり、雇用を継続する場合には更新が行われます。

契約更新時に従前と同一の労働条件で更新する場合には、問題はありません。
一方で、賃金を減額したり、労働日数・労働時間を減らしたり(日給制・時給制の場合には賃金の減少に繋がります)したうえで契約を更新することは可能なのか?という問題があります。

この点、企業と従業員との間で合意できるのであれば、労働条件を変更したうえで契約を更新することは可能です。

2 従業員が契約更新時に労働条件の変更を争った場合はどうなるか?

問題は、従業員が賃金の減額など労働条件の変更を受け入れなかった場合です。
この場合、有期雇用契約が更新されずに契約終了となるのか?雇い止め法理の適用により従前と同一の条件で契約が更新されるのか?が問題となります。

(1)雇い止め法理とは?

雇い止め法理とは、次の2つのいずれかに該当する場合、雇い止め(有期雇用契約の契約期間満了のタイミングで契約を更新せずに雇用を打ち切ること)が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」は、従業員が契約の更新を求めれば企業は契約の更新を強制されてしまうこと、を言います(労働契約法19条)。

【雇い止め法理の適用場面】

①契約上は有期雇用契約であるものの、契約更新の手続がルーズであるために、実質的には契約期間の定めのない正社員と同視できる状態にある場合。
②契約期間の定めのない正社員と同視することまではできないが、従業員が雇用契約の更新を期待し、その期待が合理的であると認められる場合。

【関連ページ】
●雇い止め

(2)雇い止め法理の適用要件を満たさない場合

雇い止め法理が適用されない場合には、有期雇用契約は契約期間を満了すれば更新されずに終了となります。

(3)雇い止め法理の適用要件を満たす場合

雇い止め法理が適用される場合には、雇い止めの①客観的に合理的な理由および②社会通念上の相当性がなければ、従前と同一の条件で契約が更新されることとなります。

この点、例えば、企業の業績が悪化し、業務量が減少したため、賃金を減額したり、労働日数・労働時間を引き下げたりする必要性が生じることもあります。
このような場合に、相当な範囲で賃金の減額、労働日数・労働時間の引き下げをせざるを得ないのであれば、①客観的に合理的な理由および②社会通念上の相当性を欠くものとは言えません。
そのため、従前と同一の条件で契約が更新されることはなく、契約期間を満了すれば有期雇用契約は終了となります。

4 契約更新時における賃金の減額をめぐるトラブルの予防策

企業としては、有期雇用契約の更新時に賃金を減額したくても認められず、従前と同一の条件で契約を更新させられてしまうような事態は、避けたいところでしょう。
このようなトラブルを回避するための予防策として、企業としては次のような対応をとることをお勧めいたします。

(1)「契約が自動的に更新するものではない」旨を就業規則・雇用契約書に明示すること

有期雇用契約に関する就業規則および雇用契約書の更新規定を、まずは確認しましょう。

契約が自動更新されるという定めになっていれば、従業員が契約更新の期待を持ってしまうため、雇い止め法理が適用され、雇い止めをする場合に支障が生じるおそれがあります。
そして、契約更新時に労働条件を変更する場合の支障にもなりかねません。

就業規則および雇用契約書で契約の自動更新が定められている場合には、規定を改正する必要があるでしょう。

【就業規則の規定例】
会社は、契約期間満了時の業務内容、業務量、従事している業務の進捗状況、業務遂行能力、勤務成績、勤務態度、健康状態、会社の経営状況、その他の状況を考慮して必要と判断した場合に、社員の同意を得たうえで契約を更新することがあるが、自動更新はしない。

(2)「契約更新時に労働条件を変更する可能性がある」旨を就業規則・雇用契約書に明示すること

従業員に「契約更新時には、従前と同一の条件で更新されるだろう」という期待を持たせないようにしましょう。
企業側が有期雇用契約の締結時に「基本的には同一の条件で更新となります」と説明するような対応は、避けるべきです。

また、就業規則および雇用契約書には、「契約更新時に労働条件を変更する可能性がある」旨の定めを設けるようにしましょう。

【就業規則の規定例】
会社は、契約の更新にあたり、契約期間満了時の業務内容、業務量、従事している業務の進捗状況、業務遂行能力、勤務成績、勤務態度、健康状態、会社の経営状況、その他の状況を考慮して契約条件の見直しを行うこととし、更新時に提示する労働条件は更新前の内容とは異なることがある。

(3)労働条件が未確定の状態で就労させないこと

従業員が労働条件の変更に納得しない場合、労働条件が未確定の状態で働かせてはいけません。
必ず新たな雇用契約書を取り交わしたうえで就労させるようにしましょう。

民法629条1項には、「雇用の期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事する場合において、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定する」と定められています。
労働条件の合意ができないままに労働を継続すると、従前と同一の条件で契約が更新したものと推定されてしまう可能性があるのです。

契約更新時の賃金の減額など、労働条件の変更についてトラブルが発生した場合には、有耶無耶にするのではなく直ちに弁護士に対応を相談するようにしましょう。

5 弁護士にご相談ください

当事務所では、企業様向けの労務問題のサポートに注力して取り組んでおります。
有期雇用契約の更新時の対応についてご不明のことがありましたら、労務問題を得意とする当事務所の弁護士にご相談いただければと存じます。

記事作成弁護士:木村哲也
記事更新日:2024年4月15日

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