弁護士・木村哲也
代表弁護士

主な取扱い分野は、労務問題(企業側)、契約書、債権回収、損害賠償、ネット誹謗中傷・風評被害対策・削除、クレーム対応、その他企業法務全般です。八戸市・青森市など青森県内全域の企業・法人様からのご相談・ご依頼への対応実績が多数ございます。

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1 はじめに

病院・クリニックに対し、厚生局の個別指導が行われています。

個別指導は、対応のいかんにより、再指導や監査に発展することがあります。
そして、監査に発展すれば、最悪の場合、保険医療機関としての指定の取消を受けることがあります。
また、医療費の返還を命じられることもあり、医療機関にとってはプレッシャーを感じることでしょう。

このページでは、厚生局による個別指導の流れと注意点について、ご説明させていただきます。

2 厚生局による個別指導とは?

個別指導とは、厚生局が病院・クリニックに対して行う手続であり、保険診療・診療費請求に関する資料を確認し、これらを適切に行うように指導することです。

健康保険法73条、国民健康保険法41条などにより、医療機関は個別指導を受ける義務があるとされています。

3 個別指導の種類

厚生局による個別指導には、以下の4種類があります。

(1)新規個別指導

新規開業からおおむね6か月~1年の病院・クリニックに対して実施される面接懇談方式の個別指導です。

(2)集団的個別指導の個別部分

診療報酬明細書1件あたりの平均点数が高い病院・クリニックに対して集団的個別指導が実施されます。

集団的個別指導には、講義方式で実施される集団部分と、面接懇談方式で実施される個別部分があります。
ただし、現在は、集団部分のみが実施されることが多いです。

(3)不正の疑い等を理由とする個別指導

患者・元従業員等から診療の内容・診療報酬の請求に関する情報提供があり、不正の疑いがあるとして実施される個別指導です。

また、個別指導により経過観察となり改善が認められない病院・クリニック、監査により戒告または注意を受けた病院・クリニック、正当な理由なく新規個別指導を拒否した病院・クリニック、集団的個別指導を受け翌年度実績も高点数の病院・クリニック、正当な理由なく集団的個別指導を拒否した病院・クリニックなども対象となります。

(4)個別指導後の再指導

上記(1)~(3)の個別指導の結果、厚生局が指導を継続し改善の有無を確認する必要があると判断した場合には、おおむね1年後に再度の個別指導が実施されます(再指導)。

4 個別指導の結果

個別指導の結果には、以下の4種類があります。

(1)「概ね妥当」

個別指導の結果、特に問題点が発見されなければ、「概ね妥当」となり、個別指導が終結します。

実際には、「概ね妥当」の結果を得ることは難しいため、次の「経過観察」の結果を目指すこととなります。

(2)「経過観察」

個別指導により問題点が発見されたものの軽微なものであれば、「経過観察」となります。

「経過観察」の場合には、数か月間、診療報酬明細書等の提出書類により改善状況の確認が行われ、改善が認められなければ、次年度の個別指導の対象となります。

(3)「再指導」

個別指導により問題点が発見され、厚生局が指導を継続し改善の有無を確認する必要があると判断した場合には、「再指導」となり、おおむね1年後に再度の個別指導が実施されます。

(4)「要監査」

個別指導の結果、診療の内容・診療報酬の請求に不正または著しい不当があったと疑うに足りる理由がある場合などには、「要監査」となり、監査が実施されることとなります。

監査が実施された場合には、内容・程度により注意、戒告、取消などの処分が行われます。
取消の処分を受けると、原則として5年間、保険診療ができなくなります。

5 個別指導の流れ

厚生局による個別指導の流れは、以下のとおりです(上記3(3)不正の疑い等を理由とする個別指導を前提とする手続の流れをご説明いたします)。

(1)実施通知から指導日まで

指導日のおおむね1か月前に個別指導の実施通知が届きます。

指導日の1週間前に対象患者20名、前日の正午までに対象患者10名が通知されます。

また、実施日の持参資料が指示されます。

(2)指導日当日

個別指導は、病院の場合には病院内、クリニックの場合には厚生局の会議室で実施されます。
厚生局・都道府県の職員5名前後と医師会派遣の立会医師が参加します。

診療報酬明細書等の関係資料を閲覧しながら、病院の場合には2時間、クリニックの場合には3時間、面接懇談方式で実施されます。

指示した資料を持参しなかった、十分な回答をしなかった、診療の内容などに疑義が生じたなどの理由により、予定時間内に指導を終了できないこともあります。
このような場合には、指導を中断して後日再開されることとなります。

指導中に診療の内容または診療報酬の請求について明らかな不正または著しい不当が疑われる場合には、指導を中止して監査に移行されます。

(3)指導日以降

個別指導の結果は、おおむね1か月後に厚生局から郵便で通知されます。

個別指導により問題点が発見された場合には、結果通知の際に改善報告書・返還同意書などの必要な書類が併せて送付され、期限内に提出することが求められます。

改善報告書は、個別指導による指摘事項に対し、実施した改善内容を記載して報告するものです。

返還同意書は、自主返還に応じる旨の同意書です。
個別指導の対象となった診療報酬明細書のうち返還が生じるものと、返還事項に該当する全患者の過去1年分の診療報酬明細書について、自主点検のうえで診療報酬の返還を求められます。

改善通知書・返還同意書の提出期限は、結果通知から1か月後とされるのが通常です。

6 個別指導の注意点

厚生局による個別指導を受ける際には、以下の点に注意しましょう。

(1)個別指導の拒否をしない

個別指導の拒否は、監査に繋がりますので、拒否をしないようにしましょう。

上記3(3)不正の疑い等を理由とする個別指導を拒否すれば、監査を行うものとされています。
また、正当な理由なく上記3(1)新規個別指導または上記3(2)集団的個別指導を拒否すれば、上記3(3)不正の疑い等を理由とする個別指導の対象となります。

(2)指示された資料を漏れなく持参する

個別指導では、実施日の持参資料が事前に指示されます。
指示された資料を漏れなく持参するようにしましょう。

指示した資料を持参しなかった場合には、指導を一旦中断して後日やり直し(再開)となることがあります。
何度も時間をかけて粗探しをされることは、得策とは言えません。
一回の指導で終わるように、持参資料の準備はしっかりと行うのがよいでしょう。

なお、個別指導日の前に診療録に追記することは、不正請求等を疑われますので、するべきではありません。
特に、診察日に記載したかのように装って診療録に追記をすることは、診療録の改ざんにあたりますので、厳禁です。

また、厚生局が診療録のコピーを要求してくることがありますが、厚生局にそのような権限はなく、これに応じる必要はありません。
このような要求は、拒否するようにしましょう。

(3)感情的にならない

間違いや不備を指摘されたり、責めるような言葉を言われたりした場合でも、感情的な対応をしないようにしましょう。

感情的になれば、不用意・不適切な発言をしてしまうおそれがあります。
また、けんか腰の対応でいたずらに担当官の心証を悪くし、問題点が改善される見込みが低いと受け取られることは、得策とは言えません(再指導に繋がります)。
何を言われても落ち着いて冷静に対応することが大切です。

また、個別指導で間違いや不備が何も指摘されないということは、ほとんどありません。
何か間違いや不備がありそれを認めたからといって、直ちに診療報酬の自主返還を求められたり、要監査になったりするわけではありません。
指摘を受けた内容が正当な場合には、素直に間違いや不備を認めて改善を約束する姿勢を見せることも大切です(間違いや不備があるのに認めなければ、再度指導して確認する必要があるとして、再指導に繋がります)。
そして、不正請求の意思がなかったのであれば、そのことを明確に伝えることが必要です。

(4)不用意・不適切な発言をしない

個別指導はプレッシャーが大きく、精神的に相当疲弊します。
そのような状況の中で、やぶ蛇となるような不用意・不適切な発言をしないように注意する必要があります。

質問の意味をよく咀嚼するとともに、答えようとする内容の意味もよく考えるようにしましょう。
答えに迷ったら、回答を控えるのがよいでしょう。
また、弁護士を同席(帯同)させている場合には、休憩を申し出て弁護士と回答内容について協議するのがよいでしょう。

(5)不安であれば弁護士に同席を依頼する

個別指導について不安がある場合には、弁護士に相談し、同席(帯同)を依頼することを検討しましょう。

弁護士に依頼して同席させることにより、厚生局から根拠が不明確な指導をされたり、高圧的な対応をされたりすることを防止することができます。
厚生局の指導内容に疑義があれば、弁護士がそれを指摘して正すことも可能です。

弁護士を活用することにより、根拠のない指導・自主返還の要求が行われるリスクを回避することに繋がります。
また、不適切な指導等を防止するためには、弁護士の同席に加え、個別指導の状況を録音することが有効です。

7 個別指導で問題となりやすい項目

厚生局による個別指導で特に問題となりやすい項目には、以下のようなものがあります。

(1)診療録

症状、所見、診療計画、診療内容に関する記載が十分にされているか?
診療の都度、診療録が記載されているか?
傷病名の開始日、終了日、転帰に関する正確な記載がされているか?
保険診療と保険外診療(自由診療、予防接種、健康診断等)の診療録を区別して管理しているか?

(2)傷病名

診療録と診療報酬明細書の傷病名が一致しているか?
主傷病名と副傷病名を区別しているか?
主傷病名でない傷病名を主傷病名として記載していないか?
主傷病名は原則として1つとされているのに対し、多数の主傷病名を記載していないか?
十分な医学的根拠なく傷病名を記載していないか?
「疑い」の傷病名であるのに確定傷病名を記載していないか?あるいは、確定傷病名であるのに「疑い」の傷病名を記載していないか?
長期間にわたり「疑い」の傷病名を記載していないか?
長期間にわたり急性疾患の傷病名を記載していないか?

(3)外来診療

「初診料」に関し、再診相当であるのに算定していないか?
「夜間・早朝等加算」に関し、受付時間が診療録に記録されているか?
「時間外等加算」に関し、常態として又は臨時に診療応需の態勢をとっている時間・休日に算定していないか?
「外来管理加算」に関し、患者からの聴取事項と診察所見の要点が診療録に記載されているか?
「地域包括診療加算」に関し、初回算定時に患者の署名付きの同意書を作成しているか?
「地域包括診療加算」に関し、 患者が受診しているすべての医療機関を把握し、処方されている医薬品すべてを管理している内容について、診療録に記載しているか?
「地域包括診療加算」に関し、健康診断・検診の受診勧奨の結果等を診療録に記載しているか?

(4)入院

「入院料」に関し、入院診療計画の記載内容が個々の患者の症状に応じた内容になっているか?(画一的な内容になっていないか?)
「救急・在宅等支援病床初期加算」について、入院前の患者の所在、自院における入院歴の有無、入院までの経過等が診療録に記載されているか?
「病棟薬剤業務実施加算」に関し、医師等に対し服薬計画を提案した書面の写しが診療録に添付されているか?
「回復期リハビリテーション病棟入院料」に関し、入院時または転院時および退院時における日常生活機能評価の測定結果が診療録に記載されているか?

(5)検査

必要以上に多く検査を実施していないか?
必要な段階を踏まずに検査を実施していないか?

(6)医学管理等

「特定疾患療養管理料」に関し、管理内容の要点を診療録に記載しているか?個々の患者の症状に応じた内容になっているか?(画一的な内容になっていないか?)
「悪性腫瘍特異物質治療管理料」に関し、腫瘍マーカー検査の結果および治療計画の要点が診療録に記載されているか?
「てんかん指導料」に関し、診療計画および診療内容の要点が診療録に記載されているか?
「難病外来指導管理料」に関し、診療計画および診療内容の要点が診療録に記載されているか?
「皮膚科特定疾患指導管理料」に関し、診療計画および診療内容の要点が診療録に記載されているか?
「外来・集団栄養食事指導料」に関し、管理栄養士に対する指示事項が診療録に記載されているか?
「在宅療養指導料」に関し、保健師または看護師に対する指示事項が診療録に記載されているか?
「喘息治療管理料」に関し、吸入ステロイド薬の服用に関する指導内容の要点が診療録に記載されているか?
「慢性維持透析患者外来医学管理料」に関し、検査結果および計画的な治療管理の要点が診療録に記載されているか?
「糖尿病合併症管理料」に関し、糖尿病足病変ハイリスク要因に関する評価結果、指導計画および実施した指導内容が診療録に記載されているか?
「生活習慣病管理料」に関し、療養計画書の写しが診療録に貼付されているか?
「介護支援連携指導料」に関し、ケアプランの写しが診療録に添付されているか?
「退院時リハビリテーション指導料」に関し、指導または指示内容の要点が診療録に記載されているか?
「診療情報提供料(Ⅰ)」に関し、交付した文書の写しが診療録に添付されているか?
「薬剤情報提供料」に関し、薬剤情報を提供した旨が診療録に記載されているか?

(7)在宅医療

「往診料」に関し、患家の求めの内容、連絡の態様、求めがあった時刻等が診療録に記載されているか?
「在宅患者訪問診療料」に関し、訪問診療の計画、診療内容の要点、診療時間、診療場所を診療録に記載し、同意書を診療録に添付しているか?
「在宅時医学総合管理料」に関し、在宅療養計画および説明の要点を診療録に記載しているか?
「在宅患者訪問看護・指導料」に関し、医師の看護師らに対する指示内容、患者の状態、指導内容、看護内容の要点を診療録に記載しているか?
「訪問看護指示料及び特別訪問看護指示加算」に関し、指示書等の写しを診療録に添付しているか?
「在宅患者緊急時等カンファレンス料」に関し、参加した医療関係職種等の氏名、カンファレンスの要点、患者に行った指導の要点、カンファレンスを行った日を診療録に記載しているか?
「在宅療養指導管理料」に関し、在宅療養を指示した根拠、指示事項、指導内容の要点を診療録に記載しているか?
「在宅患者訪問リハビリテーション指導管理料」に関し、医師の理学療法士等に対する指示内容の要点を診療録に記載しているか?

(8)リハビリ

「疾患別リハビリテーション」に関し、開始時および3か月ごとの実施計画の説明の要点を診療録に記載しているか?また、訓練内容の要点を診療録に記載しているか?
「目標設定等支援・管理料」に関し、医師の患者に対する説明内容および患者が説明をどのように受け止め、どのように反応したかについて、診療録に記載しているか?

(9)一部負担金等

一部負担金について、受領すべき者から受領していないことはないか?(従業員およびその家族など)
未収の一部負担金について、管理簿の作成・納入の督促を行っているか?
領収証・明細書に消費税に関する文言があるか?

8 弁護士にご相談ください

当事務所では、青森県内の複数の病院・クリニック様と顧問契約を締結しており、医療に関する諸問題のご相談・ご依頼実績がございます。

厚生局から個別指導の通知を受けた場合のご相談、個別指導後の改善報告書の提出・自主返還に関するご相談、再指導・監査に関するご相談、個別指導対応・監査対応のご依頼などを承っております。

個別指導の対応についてお困りの病院・クリニック様は、当事務所にご相談いただければと存じます。

記事作成弁護士:木村哲也
記事更新日:2024年2月2日

当事務所の個別指導に関する対応費用

●初回相談料:1時間1万1000円(税込)(顧問契約締結の場合は無料)
●帯同(同席)のみの依頼
個別指導:22万円(税込)(顧問契約締結の場合は無料または割引)
監査:33万円(税込)(顧問契約締結の場合は無料または割引)
※1期日で終わらなかった場合には、以降1期日ごとに11万円(税込)が加算されます。
●個別指導対応の依頼
着手金:22万円(税込)(顧問契約締結の場合は無料または割引)
報酬金:44万円(税込)(顧問契約締結の場合は無料または割引)
※報酬金は、要監査にならずに終結した場合に発生します。
●監査対応の依頼
着手金:55万円(税込)(顧問契約締結の場合は割引)
報酬金:110万円(税込)(顧問契約締結の場合は割引)
※報酬金は、取消にならずに終結した場合に発生します。

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お困りの企業・法人様は、ぜひ一度、当事務所にご相談いただければと存じます。

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