弁護士・木村哲也
代表弁護士

主な取扱い分野は、労務問題(企業側)、契約書、債権回収、損害賠償、ネット誹謗中傷・風評被害対策・削除、クレーム対応、その他企業法務全般です。八戸市・青森市など青森県内全域の企業・法人様からのご相談・ご依頼への対応実績が多数ございます。

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はじめに

就業規則で副業を禁止し、あるいは許可制(会社が事前に許可した場合に限り、副業を認める)としている会社も数多く見られます。
そして、従業員が会社に無断で副業をしたため、懲戒処分や解雇の対象となる例も少なくありません。
しかし、従業員が副業禁止に違反したからといって、安易に懲戒処分や解雇を行ってしまうと、不当処分や不当解雇をめぐるトラブルが発生するリスクがあります。
今回のコラムでは、副業禁止に違反した従業員に懲戒処分や解雇ができるケース、できないケース、副業禁止に違反した従業員への対応などを解説させていただきます。

副業禁止に関する基本的な考え方

従業員は、就業時間中は業務に専念しなければなりません。
そのため、就業時間中の副業が禁止されるのは当然のことです。
しかし、就業時間外は従業員のプライベートであり、会社が従業員の活動を制限することはできないのが原則です。
そうすると、就業時間外の副業は本来従業員の自由であり、会社がこれを禁止することはできないというのが基本的な考え方となります。

一方で、就業規則に次のような条項を設け、副業を原則禁止・許可制としている企業も多いです。

【副業禁止の規定例】
第〇条(副業の禁止)
従業員は、事前に会社の書面による許可を得ることなく、他の会社等に雇い入れられ、他の会社等の役員に就任し、または自ら事業を行ってはならない。

副業を禁止する企業の考えは、本業に専念するようにしてほしい、副業により本業に支障が生じると困る、競合他社でも仕事をされると困る、副業をすることにより情報漏えいが起こると困る、会社の社会的信用を落とすような副業をされると困る、というものでしょう。
このような目的は、不当なものであるとは言えません。
そのため、就業規則における副業禁止の規定は、全面的な副業禁止であれば無効とされるリスクがあるものの、上記のような許可制の定めであれば、許可の制度が適正に運用される限り(例えば、許可制としておきながら、実質的には全面禁止という運用はいけません)、従業員に対する過度の制約とまでは言えず、有効性が認められやすいでしょう。

そして、就業規則では、副業禁止の規定違反が懲戒事由に該当することを定めておくのが一般的です。
副業禁止の規定違反が懲戒事由に該当することの定めがなければ、懲戒処分・懲戒解雇を行うことはできません。

副業禁止に違反した従業員に懲戒処分や解雇ができるケース

副業禁止に違反した従業員に懲戒処分や解雇ができるのは、本業に支障のある副業など、禁止する必要が高い場合です。
前述のとおり、就業時間外の副業は本来従業員の自由というのが基本ですから、副業禁止に違反したからといって、何でもかんでも懲戒処分や解雇ができるわけではありません。
懲戒処分や解雇ができるケースとしては、次のような例があります。

就業時間中の副業

従業員は、就業時間中は業務に専念しなければなりません。
就業時間中であるにもかかわらず、従業員が副業をした場合には、懲戒処分や解雇を検討するべきでしょう。

本業に支障が生じる副業

就業時間外の副業であっても、本業に支障が生じている場合には、禁止の対象です。
例えば、副業が長時間労働や深夜労働であるために疲労が蓄積し、遅刻や欠勤が多く本業に専念できなくなっている場合には、懲戒処分や解雇ができる可能性があります。

競合他社における副業

競業他社における副業は、自社の売上減少に繋がるなど、本業の会社に不利益を及ぼすものですので、禁止することができます。
競合他社での副業が発覚した場合には、懲戒処分や解雇ができる可能性があります。

情報漏えいのおそれがある副業

顧客情報、技術情報などの重要な秘密情報が漏えいするおそれがある副業も、懲戒処分や解雇の理由となり得ます。
前述の競合他社における副業は、重要な企業秘密の漏えいや悪用のおそれがあるという点においても、禁止することができる副業です。

社会的信用を低下させる副業

品位を損なうような副業は、禁止することができます。
副業禁止に違反して違法な業務、会社の企業イメージを大きく落とす業務を行っている場合には、懲戒処分や解雇を検討することができます。
なお、風俗店やキャバクラ・スナックでの副業が問題となることもありますが、どの程度会社の企業イメージに影響するか?という点は慎重に検討する必要があります。

副業禁止に違反した従業員に懲戒処分や解雇ができないケース

たとえ就業規則に副業禁止が定められていたとしても、副業が就業時間外に行われ、本業に支障が生じることがなく、会社に不利益が及ぶおそれが少ないのであれば、副業を禁止することはできません。
このような場合には、形式的に就業禁止の規定に違反したからといって、懲戒処分や解雇をすれば、違法となるリスクがあります。
性急な懲戒処分や解雇を行うことは、不当処分や不当解雇をめぐる法的トラブルに発展するおそれがありますので、ご注意ください。
裁判所で不当処分や不当解雇にあたると認定され、副業が正当であるというお墨付きが出てしまうと、解決金の支払を余儀なくされたり、解雇後の復職を受け入れざるを得なくなったりすることもあります。
そして、問題社員がますます副業に傾倒して本業をおろそかにし、他の従業員にも波及するなどの悪影響が出ることも考えられます。

ここで、副業の問題性が小さく禁止することはできないものの、会社に事前の許可を求めずに無断で副業を行ったことを取り上げ、処分を行うことの可否も問題となり得ます。
この場合、副業をしたという本質的な事項を不問とせざるを得ない以上、事前の許可申請を怠ったという附随的な事項は、重大とまでは言えない手続違反として、注意または戒告・けん責といった軽い懲戒処分で終わらせるほかないと考えられます。

なお、副業をしていることを会社が知りながら、これを黙認していた場合には、副業禁止の違反を理由とする解雇や懲戒処分が違法と評価されるリスクがあります。
また、本業への支障や自社への不利益が少ないにもかかわらず、一律に副業を不許可とする運用も、違法と評価されるリスクがあります。

副業禁止に違反した従業員への対応

従業員が就業時間中に副業をした場合や、副業禁止に違反して本業に支障のある副業、会社に不利益が及ぶおそれのある副業をした場合には、会社としては相応の対応をとる必要があります。
従業員が問題のある副業を行ったにもかかわらず、もし会社がこれを放置すれば、会社が損害を被ったり、他の従業員に波及したりするおそれがあります。
副業禁止に違反した従業員には、以下のように対応するのがよいでしょう。

①注意・指導

従業員が副業として違法な業務に従事した場合や、副業により会社が重大な実害を被った場合には、直ちに解雇することがやむを得ないこともあります。
しかし、そのような重大事案でなければ、いきなり解雇に踏み切ると法的紛争に発展し、裁判所により解雇が無効とされてしまうリスクがあります。
そこで、まずは副業により本業に支障が生じていることや、会社に不利益が及ぶおそれがあることを指摘し、注意・指導を行うようにしましょう。
注意・指導を行うことにより、従業員が問題のある副業をやめることもあります。

また、将来的に解雇することを考えた場合にも、注意・指導を徹底することにより「会社が副業を黙認していた」と言わせないようにすることが大切です。
会社が副業を黙認していた場合には、副業禁止の違反を理由とする懲戒処分や解雇が違法とされてしまうからです。

②懲戒処分

注意・指導を行っても副業による問題点が解消しない場合には、就業規則に従って懲戒処分を下す段階に移ります。
懲戒処分の種類には、軽い順に、戒告・けん責、減給、降格、出勤停止、諭旨解雇、懲戒解雇などがあります。
懲戒処分は、問題となる行為の程度に見合うものを選ぶようにしましょう。
問題となる行為と比べて重い懲戒処分を下してしまうと、法的トラブルに発展し、裁判所により不当処分や不当解雇とされてしまうリスクがありますので、注意が必要です。

例えば、「副業が深夜に及んだため、遅刻してしまうことがあったが、反省して副業をやめると約束した」というケースでは、戒告・けん責などの軽い懲戒処分が適しています。
一方で、「競合会社で副業し、会社の秘密情報を流した」、「副業として犯罪行為に手を染めた」などの重大なケースでは、諭旨解雇や懲戒解雇などの厳しい懲戒処分を下しても問題ないと言えるでしょう。

③退職勧奨

副業の問題性が悪質・重大な場合や、軽い懲戒処分を下しても状況が改善しない場合には、解雇を検討することとなるでしょう。
しかし、やはり解雇に踏み切ると不当解雇をめぐるトラブルに発展するおそれもあるため、まずは「退職勧奨」(従業員を説得し、退職を促すこと)を行うこともご検討いただくとよいでしょう。
例えば、「そうであれば当社は退職し、副業に専念した方がいいのでは?」と説得し、合意退職してもらうことなどが考えられます。
会社がこのような退職勧奨を行うこと自体は違法ではありません。
しかし、退職を強要するような言動をすれば「退職強要」として違法と評価されますので、注意が必要です。

副業に精力的に取り組む反面、本業をおろそかにするような従業員は、会社に対する忠誠心が薄れていることも多く、すんなりと退職に応じてくれることもあるでしょう。

④解雇

上記のような注意・指導~懲戒処分~退職勧奨のステップを踏んでもなお、副業による問題が解決しない場合には、解雇に踏み切ることとなるでしょう。
解雇には正当な理由が必要とされ、解雇が有効と認められるためのハードルは非常に高いものとされています。
しかし、上記のようなステップを踏むことにより会社が問題解決の努力を尽くしたにもかかわらず、従業員が問題のある副業を続けたとなれば、裁判所が解雇を有効と認める可能性が高まるでしょう。
また、副業の違法性や会社が被った実害が顕著な場合にも、裁判所が解雇を正当と認める可能性が高いものと考えられます。

なお、懲戒解雇の場合には退職金を減額・不支給とする旨、就業規則に定めている会社が多く見られます。
しかし、退職金の減額・不支給は、懲戒解雇の有効性以上にハードルが高いです。
裁判例によれば、それまでの勤続の功を抹消または減殺するほどの著しい背信行為がある場合でなければ、退職金の減額・不支給は許されないと考えられています。
退職金を減額・不支給としても問題がないのは、例えば、競合他社における副業で秘密情報を漏えいしたとか、顧客の引き抜きを行ったなど、会社が被った実害が顕著な場合などに限られてくるでしょう。

弁護士にご相談ください

近年では、従業員が副業をする例も増えており、副業禁止に違反した従業員への対処についてご相談いただくこともございます。
以上のように、副業禁止の運用や違反者への対処は、慎重に検討しなければ法的トラブルの発生を招きます。
従業員の副業の問題が発生した場合には、労務問題に詳しい当事務所の弁護士にまずはご相談いただければと存じます。

記事作成弁護士:木村哲也
記事更新日:2023年8月21日

当事務所の問題社員に対する注意指導・懲戒処分サポートの流れ

問題社員に対する注意指導・懲戒処分について当事務所にご相談・ご依頼いただく場合の解決までの流れは、次のとおりです。

①ご相談
弁護士が対象となる問題社員の業務内容・問題点、これまでの対応などを詳しくお聞きし、今後の対応方針を検討・提案いたします。

②ご依頼
対応方針が決まったら、ご希望により弁護士に注意指導・懲戒処分のサポート業務をご依頼いただきます。

③お打ち合わせ
会社担当者様と弁護士とで具体的な注意指導・懲戒処分の内容・段取りについてお打ち合わせをし、当日の対応に備えます。
弁護士が必要に応じて注意書・指導書・懲戒処分通知書などの書面を作成いたします。

④同席対応
弁護士が会社を訪問し、対象となる問題社員との面談に同席いたします。
面談の席において、弁護士が注意指導・懲戒処分の言い渡しをサポートいたします。

当事務所の問題社員に対する退職勧奨・解雇サポートの流れ

問題社員に対する退職勧奨・解雇について当事務所にご相談・ご依頼いただく場合の解決までの流れは、次のとおりです。

①ご相談
弁護士が対象となる問題社員の業務内容・問題点、これまでの対応などを詳しくお聞きし、今後の対応方針を検討・提案いたします。

②ご依頼
対応方針が決まったら、ご希望により弁護士に退職勧奨・解雇のサポート業務をご依頼いただきます。

③お打ち合わせ
会社担当者様と弁護士とで具体的な退職勧奨・解雇の内容・段取りについてお打ち合わせをし、当日の対応に備えます。
弁護士が必要に応じて退職合意書・解雇通知書などの書面を作成いたします。

④退職勧奨のサポート

弁護士が会社を訪問し、退職勧奨の面談に同席いたします。
面談の席において、弁護士が退職強要とならないようにサポートし、退職の同意が得られた場合には、退職合意書の取り交わしを行います。

⑤解雇のサポート
退職勧奨をしても退職の同意を得られず解雇に踏み切る場合には、弁護士が面談の席に同席し、解雇の言い渡しをサポートいたします。

「当事務所」の弁護士へのお問い合わせ方法

当事務所では、地域の企業・法人様が抱える法的課題の解決のサポートに注力しております。
お困りの企業・法人様は、ぜひ一度、当事務所にご相談いただければと存じます。

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