この記事を書いた弁護士

弁護士・荒居憲人
八戸シティ法律事務所 在籍

主な取扱い分野は、労務問題(企業側)、契約書、債権回収、損害賠償、ネット誹謗中傷・風評被害対策・削除、クレーム対応、その他企業法務全般です。八戸市・青森市など青森県内全域の企業・法人様からのご相談・ご依頼への対応実績が多数ございます。

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1 不正競争防止法による営業秘密の保護

いわゆる営業秘密とは、一般的には、企業の営業上の秘密として他社に漏れないように管理されている情報のことをいいます。
法律上は、不正競争防止法において、次のように定義されています。
すなわち、不正競争防止法の「営業秘密」とは、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定義されています(不正競争防止法2条6項)。
従業員が業務上知り得た社内の情報を外部に漏らすことは、一般的には就業規則等の会社内のルールに違反するに過ぎません。
法律に違反したといえるためには、従業員が漏らした情報が不正競争防止法上の「営業秘密」に該当する必要があります。

「営業秘密」に該当する場合には、それを不正に取得し、あるいは不正に持ち出されたことを知って使用する行為は、単なる社内ルールに違反するといったことに加えて、その他の犯罪構成要件に該当する場合には、罰金あるいは懲役刑を科される可能性があります。
また、同様の行為は、故意または過失により他人の権利利益を侵害するものとして、損害賠償請求の対象とされることが定められています。
このように不正競争防止法上の「営業秘密」に該当することにより、ある社内情報の持ち出しが単なる社内ルール違反に収まることなく、従業員に対し法的な制裁が科されることになります。

2 不正競争防止法の営業秘密の要件

それでは、どのような情報が不正競争防止法上の「営業秘密」に該当するのでしょうか。
不正競争防止法上の「営業秘密」に該当することは重大な法律上の効果を生じさせるため、その定義は極めて厳格に定められています。
会社にとって主観的に価値のある情報といえるだけでは、「営業秘密」として法律の手厚い保護を受けることはできません。
不正競争防止法上の「営業秘密」に該当するものは、社内情報のうち、以下の3つの要件を満たすものに限定されます。
それは、①秘密管理性、②有用性、③非公知性というものです。
この要件について順番に見ていくことにします。

①の秘密管理性とは、先ほど述べたことと関連しますが、主観的に秘密として管理されているだけでなく、客観的に見て秘密として管理されていると認識できる状態にあることが必要とされています。
言い替えれば、ある情報が、会社の従業員にとって秘密と明確に認識しうる形で管理されていることをいいます。
裁判例においては、情報にアクセスできる者の制限性(例えば、社員以外の者はアクセスできないような措置がとられていること等)、その情報にアクセスした者にそれが営業秘密であると認識できるようにされていること(書類に「部外秘」と記載されていること等)が必要とされています。
情報にアクセスできる者の制限性という観点から、会社において、入社時に従業員から秘密保持誓約書を取得する、就業規則に秘密保持に関する規定を整備する、秘密管理規定を整備する、といった対策をすることが有効です。
また、現在では、会社が直接雇用する従業員だけでなく、外注先や委託業者に開示する情報についても、不正利用を予防する対策を講じる必要があります。
こちらのリスク対策についても、適切な秘密保持契約書を作成することが有効です。

次に②の有用性の要件を満たす必要がありますが、この有用性とは、裁判例上、財やサービスの生産、販売、研究開発に役立つなど事業活動にとって有用な情報を指すとされています。
有用性がある情報としては、顧客情報、販売マニュアル、接客マニュアル、仕入先・仕入価格などの取引情報がこれに該当します。
これに対し、業界に浸透しているありふれたノウハウや会社内の人員配置の情報等は有用性がないものとされています。
また、盗みのノウハウといった犯罪の手口等反社会的な情報については、法的保護の対象とならず有用性は認められません。

最後に③の非公知性という要件は、一般に知られていない情報ということです。
インターネットや書籍に掲載されている情報は、万人がその情報にいつでも接することができるため、非公知性の要件を満たさないものとされています。

以上のように、3要件を満たす極めて限定された情報のみが「営業秘密」として不正競争防止法上の法的保護を受けることができます。

3 営業秘密の漏えいがあった場合の対応

(1)民事的措置

「営業秘密」に該当するとしてその漏えいや不正利用に対しては、企業において次のような対応を執ることができます。
まず、企業による民事的な措置としては、漏えい等をおこなった従業員に対し差止め請求を行うことが考えられます。
差止め請求とは、情報の漏えいや不正利用を止めるように法的な強制力を持って要求することです。
また、漏えい等を行った従業員に対し、損害賠償請求をすることも考えられます。

(2)刑事的措置

企業において行うことができる刑事的措置の前提として、不正競争防止法上、漏えい等を行った従業員に対し、10年以下の懲役または2000万円以下の罰金あるいはその両方が科されることになります。
量刑について一例を挙げると、合成樹脂製品の製造及び販売を目的とする企業の従業員が、「営業秘密」の管理を任されていたところ、不正な利益を得る目的で中国の会社に「営業秘密」をパソコンから送信した事例では、国外に流出させた強い悪質性が認められるものの、企業に具体的な損害が発生していないことや、当該従業員が経済的な利益を得ていないことが考慮されて、執行猶予付きの懲役2年、罰金100万円の刑罰が科されることになりました(罰金については執行猶予が付きませんでした。なお、国外に情報流出させる行為については罰金刑の上限が3000万円となっています)。
漏えい等の被害に遭った企業としては、刑事告訴(犯罪事実の発生を捜査機関に伝達し、処罰を求める意思表示のこと)を行うことにより、上記の裁判例のように従業員に対し適正な処罰を求めることができます。

記事作成弁護士:荒居憲人
記事更新日:2023年7月26日

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