この記事を書いた弁護士

弁護士・木村哲也
青森シティ法律事務所 代表・所長
八戸シティ法律事務所 代表
主な取扱い分野は、労務問題(企業側)、契約書、債権回収、損害賠償、ネット誹謗中傷・風評被害対策・削除、クレーム対応、その他企業法務全般です。八戸市・青森市など青森県内全域の企業・法人様からのご相談・ご依頼への対応実績が多数ございます。
1 はじめに
・解雇した従業員が別の会社に再就職した。
・解雇後何年も経過した。
それでも不当解雇を主張してくることがあります。
このような場合、企業側はどのように反論すればよいのでしょうか?
労働者側が不当解雇を主張する場合、基本的に
・地位確認の請求(復職を求めること)
・バックペイの請求(民法536条2項により、解雇から復職までの間の賃金の支払を求めること)
の2つを請求してきます(不当解雇されたことにより精神的苦痛を被ったとして、慰謝料の請求がなされることもあります)。
上記のように、解雇した従業員が一見すると復職する気がないと思われる場合にまで、地位確認の請求やバックペイの請求が認められるのか?ということが問題となります。
2 解雇した従業員が別の会社に再就職した場合
(1)地位確認の請求・バックペイの請求の可否
地位確認の請求は、当該従業員が解雇された会社で働く意思(就労意思)を失った場合には、認められないと考えられています(就労意思を喪失した時点で黙示の退職合意が成立したなどとして地位確認を棄却する裁判例、訴えの利益を欠くとして地位確認を却下する裁判例があります)。
バックペイの請求は、就労意思の喪失時点までの賃金に限り、認められると考えられています。
裁判例によると、再就職先での試用期間が満了するなど、雇用状況が一応安定したと認められる時点をもって、就労意思を喪失したと判断される例が多いように見受けられます。
また、事案によっては、再就職した時点で就労意思を喪失したと判断される例も見られます。
【東京高等裁判所令和7年5月15日判決:フィリップス・ジャパン事件】
再就職先での賃金が解雇された会社よりも年間400万円上回っており、所定労働時間も30分短いなど、労働条件が有利であった。
また、当該従業員は、解雇予告の直後に就職活動を始めていた。
しかし、裁判所は、再就職したとはいえ、試用期間中の評価により解雇される可能性もあるところ、再就職先での試用期間終了時点をもって就労意思を喪失したものとして、同時点までのバックペイを認容した(地位確認は請求なし)。
【大阪地方裁判所令和3年9月29日判決:エヌアイケイ事件】
解雇後、独自にコンピューターシステムの技術者の紹介等を行うようになり、解雇された会社での就労時を大きく上回る収入を得るようになった時点をもって就労意思を喪失したと認定し、喪失時までのバックペイを認容する一方で、地位確認を棄却した。
【東京地方裁判所令和5年11月22日判決】
解雇直後に復職が困難であることを認識し、同一業務で労働条件がより有利な再就職先に就職後、試用期間を満了した時点で就労意思を失ったと認定し、地位確認は却下する一方で、同時点までのバックペイを認容した。
【東京地方裁判所令和元年10月23日判決:労経速2416号30頁】
解雇から1年2か月余り後に解雇前とほぼ同水準の賃金で再就職し、役職も付されたことなどから、再就職の時点で就労意思を喪失し、退職することについて黙示の合意が成立したとして、地位確認を棄却し、再就職までの間のバックペイに限り認容した。
【東京地方裁判所令和元年8月7日判決:ドリームエクスチェンジ事件】
内定取消しの事案(解雇の事案でも参照できると思われる)。
再就職先の業務が解雇された会社の業務と類似するものの、再就職先の給与水準が解雇された会社の採用内定時の条件の8割にも満たないことからすれば、再就職先での就労開始後、直ちに就労意思を喪失したとは認められないと判断。
しかし、遅くとも再就職先での試用期間満了の時点では、雇用状況が一応安定していたと認められ、就労意思が失われたと評価するのが相当であるとして、地位確認は訴えの利益を欠くとして却下する一方で、バックペイは試用期間満了時まで認容した。
【東京地方裁判所平成24年8月23日判決:ライトスタッフ事件】
解雇された保険代理店での保険営業とは全く異なる職種の税理士法人に再就職したところ、給与等において解雇前と遜色がなく、解雇から再就職までの間にCFPと社会保険労務士の資格を取得しており、新たな職場で心機一転を図ろうとするのが通常と思われるなどとして、再就職の時点で就労意思を喪失していたと判断した。
【東京地方裁判所平成21年1月30日判決:ニュース証券事件】
証券会社を解雇された従業員が他の証券会社に再就職し、証券外務員資格登録を行った。
解雇された証券会社の毎月の賃金が65万円であったのに対し、再就職した証券会社では5万円低い60万円であった。
しかし、裁判所は、法令等により証券会社間の従業員の兼業は禁止されており、証券外務員資格の登録を抹消しないと他の証券会社で証券営業をすることは禁止されていること、労働局のあっせん申請や裁判所の労働審判において地位確認を求めずに金銭解決を求めていたことなどから、他の証券会社に就職した時点で就労意思を確定的に放棄し、解雇を承諾したものと認められるとして、地位確認を棄却し、再就職までの間のバックペイに限り認容した。
ただし、アルバイトなどの一時的な再就職である場合、正社員でも賃金が大きく下がっている場合、これまでのキャリアと異なる業種についている場合などは、就労意思を喪失したとは認められないことがあります。
【東京地方裁判所令和3年10月14日判決:グローバルマーケティングほか事件】
美容師の資格を有し、美容師として勤務していたところ、その資格を活かすことができず、職種も異なる不動産会社の営業職として再就職していること、再就職後の給与額は変動があって不安定であり、平均的に見ると減少していることから、再就職により就労意思が失われたと認めることはできないとして、地位確認およびバックペイを認容した。
【東京高等裁判所令和2年1月30日判決:新日本建設運輸事件】
再就職により解雇前と同水準以上の給料を得た事実をもって、就労意思を喪失したと認めることはできないと判断。
平成28年6月に解雇、同年7月からG建材、平成29年6月からH興業、平成31年2月から現在までK建材において稼働しているが、それぞれ転職を繰り返しており、各再就職先において完全にその職務に専念し、就労意思を喪失したと認めるに足りる証拠はないとして、地位確認およびバックペイを認容。
【東京高等裁判所平成31年3月14日判決:コーダ・ジャパン事件】
解雇直後に再就職したものの、一貫して職場復帰の意思を示し、再就職先の給与額が解雇された会社の給与額よりも相当低額であったことなどから、就労意思があると認め、地位確認およびバックペイを認容した。
(2)中間収入の控除
バックペイの請求において、別の会社に就職して収入(中間収入)を得ている場合には、その分を差し引くという理論があります。
これを「中間収入の控除」と言います。
この点、解雇期間中の賃金のうち、平均賃金の6割(労働基準法26条)を超える部分から、当該賃金の支給対象期間と時期的に対応する期間内に得た中間収入の額を控除することが許されるとされています。
また、中間収入の額が平均賃金の4割を超える場合には、さらに平均賃金算定の基礎に算入されない賃金(労働基準法12条4項。賞与など)の全額を対象として中間収入の額を控除することが許されると考えられています(以上、最高裁判所昭和37年7月20日判決【米軍山田部隊事件】、最高裁判所昭和62年4月2日判決【あけぼのタクシー事件】、最高裁判所平成18年3月28日判決【いずみ福祉会館事件】)。
ここで、最高裁判所平成18年3月28日判決【いずみ福祉会館事件】における具体的な中間収入の控除額の計算方法を見ていきましょう。
【前提事実】
(解雇)
平成11年5月18日解雇。
(本件期間1)
①平成11年5月19日~平成13年4月30日(本件期間1)において、本来支払われるべきであった本俸および特業手当等が552万2346円、期末手当等が249万7060円であった。
②平成11年9月~平成13年4月(就労期間1)において、他で就労して358万0123円の収入を得た。
③上記①の552万2346円のうち、就労期間1に係るものは480万2040円、その余の期間に係るものは72万0306円である。また、上記①の249万7060円のうち、就労期間1に係るものは196万8836円、その余の期間に係るものは52万8224円である。
(本件期間2)
㊀平成13年5月1日~平成14年12月31日(本件期間2)において、本来支払われるべきであった本俸および特業手当等が480万2040円、期末手当等が237万7009円であった。
㊁平成13年5月~平成14年3月(就労期間2(1))において、他で就労して211万9269円の収入を得た。また、平成14年10月~同年12月(就労期間2(2))において、他で就労して59万3395円の収入を得た。
㊂上記㊀の480万2040円のうち、就労期間2(1)に係るものは264万1122円、就労期間2(2)に係るものは124万8530円、その余の期間に係るものは144万0612円である。また、上記㊀の237万7009円のうち、就労期間2(1)に係るものは124万8530円(うち平成13年6月の期末手当は52万8224円)、就労期間2(2)に係るものは60万0255円、その余の期間に係るものは52万8224円である。
【本件期間1に係る支払額の計算】
ⅰ.480万2040円×6割=288万1224円については、全額支払われるべきである。
ⅱ.480万2040円のうち6割を超える192万0816円については、358万0123円を控除し、支払額はゼロである。
ⅲ.なお残っている165万9307円(358万0123円-192万0816円)については、196万8836円から控除し、30万9529円が支払われるべきである。
ⅳ.就労期間1に係る支払額は、288万1224円+30万9529円=319万0753円である。
ⅴ.これにその余の期間に係る支払額72万0306円+52万8224円=124万8530円を合わせ、合計443万9283円の支払義務を負う。
【本件期間2に係る支払額の計算】
同様に、就労期間2(1)に係る支払額が177万0383円、就労期間2(2)に係る支払額が72万7166円、その余の期間に係る支払額は196万8836円であり、合計446万6385円の支払義務を負う。
(3)企業側の反論のポイント
企業側としては、解雇した従業員が別の会社に再就職したことだけではなく、再就職先での雇用形態、賃金水準、職務内容、就労期間(試用期間を満了したかどうか?など)などをもとに、就労意思が失われたことを主張していくこととなるでしょう。
また、解雇した従業員が別の会社に再就職して収入を得た場合には、バックペイの請求に対して中間収入の控除を主張していくこととなるでしょう。
3 解雇後何年も経過した場合
(1)不当解雇を主張することの可否
法律上、バックペイの請求は3年の時効が定められていますが、不当解雇を主張したり、地位確認を請求したりすることには、期間制限が定められていません。
ただし、解雇後何年も経過した場合には、権利行使に関する一般原則である信義誠実の原則(信義則。民法1条2項)により、今さら解雇無効の主張をすることは認められないとする考え方があります。
この点、裁判例には、解雇後何年も経過したこと、および解雇後の経過などを踏まえ、信義則により解雇無効の主張を許さないとしたものがあります。
【大阪地方裁判所平成4年9月30日判決:新大阪警備保障事件】
解雇後に退職金とともに解雇予告手当を受領。
また、会社から雇用保険被保険者離職証明書を受領し、保険金受給者と決定された。
裁判所に地位保全仮処分の申立てをしたものの取り下げ、取下げから約1年8か月後に地位確認を請求する訴訟を提起。
また、雇用契約終了を前提とする賃金請求を行った。
裁判所は、解雇を承諾したと受け取れる行動をとりながら、解雇が無効であるとの主張を行うことは信義則に反するので許されないと判断。
【大阪高等裁判所昭和45年4月30日判決:大映事件】
解雇予告手当および退職金を異議なく受領することにより、解雇の効力を争わないとの意思を表明したものであり、本訴提起まで7年余の長きにわたり解雇について異議を述べなかったのであるから、禁反言の法理の趣旨からも信義則上からも今さら解雇の無効を主張することは許されないと判示。
【大阪高等裁判所昭和41年4月22日判決:播磨造船事件】
解雇予告手当、退職金を何ら留保することなく、また異議を述べることなく受領することにより解雇の効力を争わないとの意思を表明し、本訴提起に至るまで約10年間何ら解雇について異議を述べなかったとして、禁反言の法理の趣旨からも信義則上からも、今さら解雇の無効を理由に雇用関係の存在を主張し、雇用関係上の権利を行使することは許されないと判示。
【最高裁判所昭和36年4月27日判決:八幡製鉄事件】
昭和25年11月に解雇、会社が退職金等を供託、昭和26年1月までの間に当該従業員が退職金等を受領、その後本訴提起まで2年数か月何ら解雇の効力を争う態度を示していなかった。
裁判所は、当事者間に解雇の効力について異議を述べないとの黙示の合意が成立した、そうでなくても、当該従業員が解雇の無効を主張することは信義則に反すると判断。
一方で、解雇から一定期間が経過しただけでは、解雇無効の主張が許されないとまでは言えないと判断した裁判例もあります。
【東京地方裁判所令和7年9月11日判決:双龍産業事件】
令和3年8月に解雇、その後当該従業員側が解雇について不当労働行為の申立てをするが、令和4年4月に取下げ、その後当該従業員は復職を求めることを含めて何ら会社に対して連絡せずに1年半以上経過。
裁判所は、当該従業員が今後は一切解雇の有効性を争わないであろうとの信頼を形成させるような積極的な作為をしたものではないとして、解雇の無効を主張することが信義則に違反して許されないものとまでは言えないと判断。
【大阪高等裁判所昭和39年6月30日判決:浅田化学事件】
解雇後6年余経過後の訴訟提起が訴権を濫用するものではないと判示。
(2)企業側の反論のポイント
企業側としては、単に解雇から年数が経過したことだけではなく、解雇後の経過などを踏まえ、信義則により解雇無効の主張は許されないということを主張していくことになるでしょう。
解雇後の経過については、労働者において解雇を承諾したと受け取れる行動があったかどうかが特に重要な事実であると考えられます。
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記事作成弁護士:木村哲也
記事更新日:2026年11月5日
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