この記事を書いた弁護士

弁護士・木村哲也
青森シティ法律事務所 代表・所長
八戸シティ法律事務所 代表

主な取扱い分野は、労務問題(企業側)、契約書、債権回収、損害賠償、ネット誹謗中傷・風評被害対策・削除、クレーム対応、その他企業法務全般です。八戸市・青森市など青森県内全域の企業・法人様からのご相談・ご依頼への対応実績が多数ございます。

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1 付加金とは

付加金とは、会社が残業代(労働基準法37条)、解雇予告手当(労働基準法20条)、休業手当(労働基準法26条)、年次有給休暇中の賃金(労働基準法39条9項)を支払わなかった場合、労働者からの請求により、裁判所が会社に対して制裁として支払を命じるお金のことです(労働基準法114条)。
未払い残業代を請求する訴訟(裁判)では、残業代(およびこれに対する遅延損害金)の他に、付加金(およびこれに対する遅延損害金)の請求が行われるのが通常です。

付加金の支払を命じられる可能性があるのは、裁判所に訴訟が提起された場合(または労働審判に対する異議申立てにより訴訟に移行した場合)のみです。
訴訟において、裁判所は、判決により未払い残業代などの支払を命じる際に、最大で未払い額と同一額の付加金を命じることがあります(つまり、判決で未払い残業代300万円の支払が命じられる場合、これとは別途最大で300万円の付加金の支払が命じられる可能性があるということです)。
裁判所を通さずに示談交渉を行う場合や、裁判所に労働審判が申し立てられた場合には、付加金の支払を命じられることはありません。
この点、労働者側が示談交渉における請求書面や労働審判申立書に付加金を記載してくることがありますが、これにより訴訟外であるのに付加金の支払を命じられることはありません。

なお、付加金の請求の期限は、現時点では、未払いがあったときから3年とされています(労働基準法143条2項)。
また、付加金の支払を命じる判決が確定した日の翌日から、年3%の遅延損害金を支払う必要があります。

2 付加金の有無・金額の判断要素と裁判例

付加金は、未払い残業代があれば当然に発生するものではなく、その金額も必ずしも未払い額と同一額というわけではありません。
裁判所は、どのような要素を考慮して付加金の有無・金額を判断するのでしょうか?

(1)判断要素

裁判所は、会社による労働基準法違反の程度や態様、労働者の受けた不利益の性質や内容、労働基準法違反に至る経緯やその後の会社の対応等の諸事情を考慮して、付加金の支払命令の可否および金額を決定することができると考えられています(大阪地方裁判所平成8年10月2日判決【共立メンテナンス事件】など)。

付加金の有無・金額は、裁判所の裁量によるということです。

(2)未払い額と同一額の付加金を認めた裁判例

【福岡地方裁判所小倉支部令和3年8月24日判決:グローバル事件】
時間外労働を余儀なくされていることを認識していたにもかかわらず、割増賃金をまったく支払わないという対応は悪質であるとして、未払い額と同一額の付加金を認めた。

【千葉地方裁判所平成29年5月17日判決:イオンディライトセキュリティ事件】
仮眠時間および休憩時間の取り扱いについて労働基準監督署の指導を受けながら有効な措置をとらなかったこと、朝礼および着替えの時間が労働時間に当たることは明白であるのに残業代の支払をしなかったこと、当該従業員の賃金が高水準とは言い難く残業代の不払いによる不利益が大きいことから、未払い額と同一額の付加金を認めた。

【大阪高等裁判所平成17年12月1日判決:ゴムノナイキ事件】
タイムカードを導入しないなど出退勤の管理を怠っていたこと、そのため相当長時間の残業について手当が支給されずに放置されていたこと、労働基準監督署からその旨の是正勧告も受けていることなどの事情を考慮し、未払い額と同一額の付加金を認めた。

(3)未払い額から減額した額の付加金を認めた裁判例

【神戸地方裁判所姫路支部平成20年2月8日判決:播州信用金庫事件】
臨店調査をした労働基準監督署が時間外勤務手当等の不支給について指導・是正勧告をしたことはないこと、当該労働者が在職期間中に時間外勤務手当等の不支給について疑問を感じていなかったことなどから、約350万円の未払い額に対して100万円の付加金を認めた。

【大阪地方裁判所平成19年11月29日判決:オフスティン事件】
時間外手当不支給の合意を交わしていたが、本来このような合意は公序良俗に反するため効力がなく、むしろ時間管理が適正に行われていなかったというべきであるが、給与・賞与等が時間外手当不支給の合意を考慮したうえで支給されていたことがうかがえるとして、未払い額の約6割の付加金を認めた。

【京都地方裁判所平成4年2月4日判決:弥栄自動車事件】
係長級職員が所定労働時間を相当超過して勤務することを予定し、その超過勤務に対する賃金を実質的に含める趣旨で給与額を設定していたこと、係長級職員には時間外手当を廃止して業務手当等の名目の賃金を支給するようになった経緯を考慮し、300万円余りの未払い額に対して50万円の付加金を認めた。

(4)付加金を認めなかった裁判例

【東京地方裁判所平成21年10月21日判決:ボス事件】
コンビニエンスストアの店長を管理監督者として認識して時間外勤務手当を支払ってこなかったこと、基本給とは別に店長手当を支払うことで早朝または深夜勤務についての手当を支払う対応をしてきたこと、労働基準監督署もこうした対応を認識したうえで、特段の異議を述べずに勧告・指導もしなかったことから、付加金を認めなかった。

【大阪地方裁判所平成13年10月19日判決:松山石油事件】
長期にわたって時間外割増賃金および休日労働賃金の未払いが続いていたものの、労働基準法違反を認識しないまま管理職手当について一般職の手当と比べて高額な金額を設定し、また、労働基準監督署の調査以降に就業規則を改定して時間外割増賃金、休日労働賃金、管理職手当について明文化し、賃金体系を整えたとの事情を考慮し、付加金を認めなかった。

【大阪地方裁判所平成13年3月26日判決:風月荘事件】
当該従業員の賃金には、その額を特定して分離することはできないものの、勤務が時間外および深夜に及ぶことをも考慮して決定された部分が含まれていること、割増賃金額がこのような賃金月額を前提に算出しているため高額なものになっていること、勤務時間帯などは当該従業員自身によって決定されており、会社の勤務管理が強いものではなかったこと、当該従業員の現実の勤務中には1日8時間に満たない勤務しかしていない日が散見されることなどの事情に照らし、付加金を認めなかった。

【大阪地方裁判所平成8年10月2日判決:共立メンテナンス事件】
労働密度が極めて希薄な断続的労働であり、当該従業員において多分に労働時間の管理をなすことのできるものであったこと、給与等がこうした労働に対する対価としては決して少ないものではないこと、管理職手当の支給が勤務時間外の労働に対する対価を補完するものとして給付されていたと考える余地もあることなどから、労働基準法違反の違法性の程度が大きいとは言い難いなどとして、付加金を認めなかった。

3 付加金を請求された場合の対応

付加金を請求された場合、以下のような対応をとるのがよいでしょう。

(1)示談・和解により解決する

付加金の支払義務は、残業代を支払わない場合に当然発生するものではなく、裁判所が判決で付加金の支払を命じることにより初めて発生します。

そのため、裁判所を通さずに示談交渉により解決する場合には、付加金を支払う必要はありません。
また、裁判所に労働審判が申し立てられた場合でも、合意(調停成立)により解決する場合には、付加金の支払を命じられることはありません。
労働審判の手続で合意に至らなければ審判が下されることとなりますが、労働審判では付加金の支払を命じることはできないため、審判に従って残業代を支払えば付加金を支払う必要はありません。
さらに、裁判所に訴訟を提起された場合(または労働審判に対する異議申立てにより訴訟に移行した場合)でも、判決にまで至らず、和解により解決する場合には、付加金を支払う必要はありません。

そのため、未払い残業代が発生している場合(判決になれば未払い残業代の支払を命じられる可能性が高いと考えられる場合)には、訴訟における判決に至る前に示談・和解により解決することを検討してもよいでしょう。

(2)悪質・不誠実でないことを主張する

訴訟では、「仮に未払い残業代が発生しているとしても、会社が悪質・不誠実とは言えないから、付加金の支払を命じる必要はないとするのが相当である」という主張をしていくべきです。

付加金の有無・金額の判断要素は、会社による労働基準法違反の程度や態様、労働者の受けた不利益の性質や内容、労働基準法違反に至る経緯やその後の会社の対応等の諸事情です(大阪地方裁判所平成8年10月2日判決【共立メンテナンス事件】など)。

これらの要素に当たる具体的な事実を主張・立証し、会社が悪質・不誠実でないことを訴えていきます。

【主張・立証のポイント】
①違反の程度や態様:意図的・組織的に残業代を隠していたか?あるいは法解釈の誤りなど過失に近いものか?
②労働者の不利益:給与体系の合理性(基本給の水準など)や代わりの手当(管理職手当)があったか?
③その後の会社の対応:指摘を受けた後に誠実に調査や支払の話し合いを行ったか?
など

(3)付加金部分を控訴して残業代部分を支払または弁済供託する

第一審において、未払い残業代の支払を命じるとともに、付加金の支払を命じる判決が下された場合には、次のような対応をとることを考えます。

【対応手順】
①残業代部分は控訴せず、付加金部分のみを控訴する。
②第一審判決で支払を命じられた残業代(およびこれに対する遅延損害金)を、当該労働者の給与振込先口座に振り込む方法により支払う。当該従業員の代理人から受領を拒絶する明示的なアクションがある場合には、受領拒絶を供託原因として法務局に弁済供託(民法494条)する。
③その後、控訴審において、残業代を支払った旨の主張を行う。

この点、東京高等裁判所令和元年12月24日判決【恩賜財団母子愛育会事件】では、会社側は第一審判決のうち残業代部分は控訴せず、付加金部分のみを控訴し、控訴審の手続中に残業代部分のほとんどを弁済および弁済供託しました。
裁判所は、控訴審の口頭弁論終結時までに未払い残業代の支払を完了して支払義務違反の状況が消滅したときには、もはや裁判所は付加金の支払を命じることができなくなると判示しました(なお、このことは、最高裁判所平成26年3月6日判決【甲野堂薬局事件】でも判示されています)。
そのうえで、裁判所は、会社側の弁済および弁済供託により、未払い残業代のほとんどが消滅したから、消滅前の債権額を前提として付加金を認めることはできないとして、最終的に付加金は発生しないと判断しました。

基本的には、この裁判例を参考にして、上記【対応手順】のとおり対応するのが無難でしょう。

これに対し、東京地方裁判所令和4年3月2日判決【三井住友トラスト・アセットマネジメント事件】では、会社側は第一審判決のうち残業代部分および付加金部分について、全部控訴する一方で、控訴審の手続中に残業代部分を弁済供託しました。
裁判所は、会社側が残業代部分についても控訴して争っている以上、会社側の弁済供託はあくまでも条件付きのものに過ぎないとして、弁済供託がなされているにもかかわらず、残業代の支払を命じました。
一方で、裁判所は、付加金の支払を命じなければならないほど会社が悪質であるとは認められないとして、付加金の支払を命じないと判断しました。
しかし、結論としては付加金の支払を命じないとする判断であるものの、残業代部分も控訴して争いながら弁済供託をしても、残業代の支払をしたとは認められない結果、付加金阻止の対策にはならないと考えることができます。

このような裁判例もあるところ、付加金の阻止を目的として残業代部分および付加金部分を全部控訴することにはリスクがあると考えられるため、十分な注意が必要でしょう。

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記事作成弁護士:木村哲也
記事更新日:2026年9月24日

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