この記事を書いた弁護士

弁護士・畠山賢次
八戸シティ法律事務所 在籍
主な取扱い分野は、労務問題(企業側)、契約書、債権回収、損害賠償、ネット誹謗中傷・風評被害対策・削除、クレーム対応、その他企業法務全般です。八戸市・青森市など青森県内全域の企業・法人様からのご相談・ご依頼への対応実績が多数ございます。
1 私生活上の非行と懲戒処分・解雇
会社は従業員との間で雇用契約を締結していますが、会社による拘束はあくまで業務時間中に限られます。
従業員の私生活上の行為については、その自由が保障されており、会社の管理権・処分権が及ぶものではありません。
そのため、従業員の私生活上の非行を理由とする懲戒処分や解雇は、原則として許されません。
もっとも、従業員の非行が私生活上のものであっても、企業秩序に直接関連するものや、企業の社会的評価を低下・毀損させ、円滑な運営に支障をきたすおそれがあるものについては、例外的に懲戒処分や解雇が可能なケースがあります。
まず、私生活上の非行を理由に懲戒処分や解雇をする前提条件として、当該非違行為が就業規則上の懲戒事由や解雇事由に該当する必要があります。
そのため、私生活上の非行を懲戒処分の対象とする場合には、対象とする事由や処分の種類を、就業規則にあらかじめ具体的に定めていることが前提となります。
ただし、就業規則に懲戒事由や解雇事由を具体的に定めていたとしても、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には、会社の権利濫用であるとして、当該懲戒処分や解雇が無効となってしまいます(労働契約法15条、16条。)。
最高裁判所においては、私生活上の非行に関する懲戒処分が権利濫用とならないための判断基準として、「当該行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類、態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から綜合的に判断して、右行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければならない」と判示しています(日本鋼管事件。最高裁判所昭和49年3月15日判決。)。
そのため、私生活上の非行に関する懲戒処分や解雇を行うにあたっては、当該従業員の非行によって、会社の社会的評価に悪影響を及ぼすものであり、その悪影響の程度が相当重大であることを、証拠により説明できるようにしておく必要があります。
2 事例別に見る懲戒処分・解雇の可否
上記の日本鋼管事件は、私生活上の非行に対する懲戒処分や解雇に関するリーディングケースであると考えられています。
そして、日本鋼管事件の判決は、次の要素を考慮して懲戒処分の有効性を判断する必要があると判示しました。
・当該行為の性質、情状
・会社の事業の種類、態様、規模
・会社の経済界に占める地位、経営方針
・当該従業員の会社における地位、職種
そこで、これらの各要素を踏まえて、事例別に懲戒処分・解雇の可否について、お話しさせていただきます。
(1)私生活上の犯罪行為
従業員が私生活において犯罪行為をした場合、会社の名誉や信用を傷つけることは明らかです。
特に、重大な犯罪行為や、報道で勤務先が明らかとされた場合、悪影響は大きいといえるでしょう。
もっとも、懲戒処分や解雇が有効となるのは、直接会社の社会的評価に悪影響を及ぼすものであり、その程度が相当重大である場合に限定されます。
これに関連して、いくつか裁判例がありますので、ご紹介いたします。
<懲戒処分が無効と判断された事例①>
深夜に他人の家に侵入し、住居侵入罪で罰金刑を受けた従業員に対して、懲戒解雇の処分がなされました。
この事例では、会社の業務に関係ない私生活の範囲内で行われた行為であることや、職務上の地位等も考慮されて、無効と判断されました(横浜ゴム事件。最高裁昭和45年7月28日判決。)。
<懲戒処分が無効と判断された事例②>
電鉄会社の従業員(駅職員)が、電車内での痴漢行為により条例違反で逮捕され、その際、自身が痴漢行為を行ったことを認め、釈放となりました。
その後、当該従業員は、弁護士を通じて被害者と示談を試みましたが、示談することができず、罰金刑(20万円)に処せられました。
このような状況で、会社は、当該従業員を論旨解雇しました。
この事例では、犯行内容や刑罰の程度、マスコミに報道されたことがなく社会的に周知されることがなかったこと、社外から苦情を受けたことがなかったこと、従業員の勤務態度に問題はなく、懲戒処分を受けたことがなかったこと等の事情を考慮して、論旨解雇処分は無効だと判断しました(東京メトロ事件。東京地裁平成27年12月25日判決。)。
<懲戒処分が有効と判断された事例①>
電鉄会社の従業員で、以前、電車内での痴漢行為で罰金刑に処されるとともに、会社では昇給停止及び降職処分を受けていました。
この処分を受ける際、今後このような不祥事を発生させた場合にはいかなる処分にも従うので、寛大な処分をお願いしたいとの始末書を提出していました。
それにもかかわらず、上記事件のわずか半年後に同種の痴漢行為で逮捕され、その後起訴されたことから、会社は、当該従業員を懲戒解雇しました。
この事例では、会社の事業の種類や従業員のこれまでの行為等も考慮されて、懲戒解雇が有効と判断されました(小田急電鉄事件。東京高裁平成15年12月11日判決。)。
<懲戒処分が有効と判断された事例②>
従業員が不同意わいせつ罪の容疑で逮捕され(最終的には示談をし、不起訴処分)、これが理由となって懲戒解雇の処分がなされました。
この事例では、犯罪の重大性や、会社の経済界における地位、会社が定めていた行動指針に違反していること等の事情を考慮して、懲戒解雇が有効と判断されました(大塚商会事件。令和6年10月25日判決。)。
裁判例では、犯罪行為の重大性のみならず、会社の業種や会社が経済界に占める地位、従業員の地位や、会社の業種と犯罪行為との関連性が考慮されたうえで、限定的に私生活上の犯罪行為を理由に、懲戒処分や解雇を認めている傾向にあります。
(2)交通違反(飲酒運転、スピード違反など)
交通違反は、その違反の種類によって悪質性が異なってくることとなり、会社の事業の種類によっては、会社に大きな悪影響を与えることにもなりかねません。
そのため、会社の事業の種類や従業員の職種、交通違反の内容によっては、懲戒処分や解雇が有効となる余地があります。
飲酒運転が関連した懲戒処分に関する裁判例をみると、会社がバス、タクシー、トラックなどの輸送事業を行っており、従業員が運転手であること等の事情が考慮され、以下のケースでは懲戒処分や解雇が有効と判断されています。
・バス運転手が休日に自家用車で酒酔い運転をした事例(千葉中央バス事件。千葉地方裁判所昭和51年7月15日判決。)
・タクシー運転手が職場の後輩に飲酒を勧め、後輩に自動車を運転させて人身事故が発生した事例(笹谷タクシー事件。最高裁判所昭和53年11月30日判決。)
・業務終了後に自家用車を運転し、事故は発生させていないものの、酒気帯び運転で検挙された事例(ヤマト運輸事件。東京地方裁判所平成19年8月27日判決。)
(3)社内不倫
社内不倫は、“社内”の人間関係ではありますが、あくまで私生活上の非行であると評価されるため、原則として懲戒処分や解雇の対象とはなりません。
もっとも、会社の規模や業種、当事者の地位や職務内容、交際状況等の事情に照らして、企業秩序に直接関連し、これを乱したといえる場合には、懲戒処分や解雇が有効となる余地があります。
<懲戒処分が無効と判断された事例>
女性従業員が男性従業員(既婚)と社内で不倫関係となったケースで、女性従業員に対する懲戒解雇の有効性が争われました。
裁判所は、女性従業員と男性従業員の地位や職務内容、交際態様、会社の規模、業態等に照らしても、女性従業員と男性従業員との交際が職場の風紀・秩序を乱し、企業運営に具体的な影響を与えたとまでは認められないとして、懲戒解雇を無効と判断しました(繁機工設備事件。旭川地裁平成元年12月27日判決。)。
<懲戒処分が有効と判断された事例>
バスの運転手(既婚男性)が、女性車掌と不倫関係となり、妊娠させたうえに中絶手術を受けさせたケースで、男性運転手への普通解雇処分の有効性が争われました。
裁判所は、当該女性車掌を退職させ、女性従業員に不安と動揺を与えたほか、求人について悪影響を生じさせ、業務の正常な運営を阻害したこと等を理由に懲戒処分を有効と判断しました(長野電鉄事件。東京高等裁判所昭和41年7月30日判決。)。
(4)無許可での副業(副業禁止違反)
従業員は、就業時間中は会社の業務に専念しなければなりません。
もっとも、就業時間外は、プライベートであるため、会社の就業規則に違反して副業を行ったからといって、直ちに懲戒処分や解雇することは許されません。
もっとも、以下のような場合、本業に支障が生じ、または会社に損害が生じることとなるため、例外的に懲戒処分や解雇が認められる余地があります。
・就業時間中に副業を行う場合
・長時間勤務であるなど、本業に支障が生じてしまう副業
・競合他社での副業のように、情報漏えいや自社の売上げ減少につながる副業
<懲戒処分が無効と判断された事例>
大学教授が、無許可で語学学校の講師業等の業務に従事して、講義を休校にしたことを理由に懲戒解雇された事案で、講師業については夜間や休日に行われていること、本業に支障が生じておらず、職場秩序に影響が生じたと認めることができないこと、教授が休校や代行が少なくないことを把握していたものの公式に注意処分がなされたことは一度もなかったこと等の事情を考慮して、解雇を無効であると判断しました(東京都私立大学教授事件。東京地方裁判所平成20年12月5日判決。)。
<懲戒処分が有効と判断された事例>
毎日6時間にわたって、深夜までキャバレーで勤務したことにより懲戒解雇された事案で、無許可であったことや兼業が深夜に及んでいたことに加えて、余暇を利用したアルバイトの域を超えるものであることを踏まえて、解雇を有効であると判断しました(小川建設事件。東京地方裁判所昭和57年11月19日判決。)。
(5)ネット誹謗中傷
私生活上におけるインターネット上の書き込みや誹謗中傷を行ったとしても、あくまで私生活上の行為であると考えられることから、原則として、これを理由として、懲戒処分や解雇を行うことは認められません。
もっとも、ネットでの誹謗中傷の内容が、会社に対するものであると判断できるものであり、会社の企業秩序に直接関連するもの、機密情報を漏洩するもの、会社の信用に関わるものを投稿するようなケースであれば、懲戒処分や解雇が有効と判断される余地があります。
<懲戒処分が無効と判断された事例>
私立大学薬学部の准教授が、「2ちゃんねる」に、同僚及び当該同僚が執筆した論文について、同僚の実名を出したうえで「相当やばい」「捏造」「被害者多数」などと投稿したことにより、懲戒解雇の処分がなされました。
この事例では、当該准教授が研究者としての研究業績が悪かったり、懲戒処分や注意指導を受けたりしたことはなかったこと、懲戒解雇を受け、准教授としての身分を喪失すれば、他大学への転職が著しく困難になること、本件投稿によって、大学における学生に対する指導や運営に具体的な支障が生じているとは認められないこと、当該准教授が投稿を止め、今後同様の投稿をしないと述べていること等の事情を考慮し、懲戒解雇は無効であると判断しました(東京高等裁判所平成29年9月7日判決。判例タイムズ1444号119頁。)
(6)多重債務・破産
従業員が、私生活において多重債務を負っている場合や、自己破産をするような場合であっても、それ自体によって会社の名誉や信用が低下することとなりません。
そのため、これを理由に懲戒処分や解雇をすることは、一般的に認められません。
ただし、自己破産手続の開始決定がなされると、警備員や宅地建物取引士、生命保険の募集人など、一定の職業に就くことについて、制限があります。
もっとも、この制限は、借金に関する免責決定が確定した場合など、法律で定める事由により、資格制限が消滅し、法的地位が回復することとなります。
そのため、従業員の破産手続中、会社は、従業員の権利が回復するまで配置転換等の措置が必要になることがありますが、破産手続を懲戒処分や解雇の理由とすることはできません。
大学の教授が、金銭の借入れを行い、給与債権の差押えを受けていること等を理由に懲戒解雇処分を受けた事例において、大学の社会的評価や信用に何らかの悪影響を及ぼした形跡は認められず、解雇は無効であると判断されています(学校法人B(教授懲戒解雇)事件。東京地方裁判所平成22年9月10日判決。)
3 処分の選択
従業員の私生活上の非行を理由として懲戒処分や解雇をするにあたっては、その処分が非違行為やこれまでの経緯等に照らして相当といえなければ、無効となってしまいます。
他方で、会社に不利益が及ぶおそれがある場合には、会社としては相応の対応をとる必要があります。
会社が従業員の私生活上の非行を認識し、これが企業秩序に直接関連するものや、企業の社会的評価を低下・毀損させ、円滑な運営に支障をきたすおそれがあるものである場合には、以下のような観点から処分を選択していくべきです。
①注意・指導
従業員の私生活上の非行により、会社が重大な損害を被った場合には、直ちに懲戒処分や解雇を検討するようなケースも考えられなくはありません。
もっとも、そのような重大な事案でなければ、いきなり懲戒処分や解雇に踏み切ると法的紛争に発展し、裁判所により懲戒処分や解雇が無効と判断されてしまうリスクがあります。
そこで、まずは当該従業員の私生活上の非行が、企業秩序に直接関連することや、企業の社会的評価を低下・毀損させるおそれのある行為であることを指摘し、注意・指導するのがよいでしょう。
②懲戒処分・解雇
懲戒処分といっても、軽い順に、戒告・けん責・減給・降格・出勤停止・論旨解雇・懲戒解雇などがあります。
懲戒処分をするからといって、自由な裁量に基づいて、どのような処分を選んでもよいということにはなりません。
懲戒処分を行うにあたっては、従業員の非違行為の悪質性や同種の非違行為の回数、経緯、会社における従業員の地位、当該非違行為により会社に与える影響の程度を踏まえ、重大性が低いと評価できる場合には、まずは軽い処分から順に行うべきです。
他方で、重大性が高い場合や、これまでも複数回にわたって軽い処分を行っているものの、当該従業員が非違行為をやめない場合には、徐々に重い処分とすることを検討すべきです。
特に懲戒解雇を選択する場合、退職金の不支給や失業保険への影響、再就職のハードルが非常に高くなるなど、労働者にとって大きな不利益を与えるものであることから、「やむを得ない」処分であるといえる必要があります。
そのため、懲戒解雇を行う場合には、特に慎重に判断していただく必要があります。
いずれの処分を行うにしても、その後紛争となってしまうことを見据えて、適切に従業員に対して弁明の機会などを与えること、従前の注意・指導、懲戒処分の記録を適切に保管すること、当該非違行為が会社に与える影響について合理的な説明ができるようにしておくことが必須であるといえるでしょう。
4 懲戒処分や解雇のことは当事務所にご相談ください
以上に説明したとおり、従業員の私生活上の非違行為があったとしても、原則として懲戒処分や解雇の対象となりません。
仮に、懲戒処分や解雇の対象となり得るとしても、その処分の選択は慎重に行う必要があります。
また、懲戒処分や解雇をした後に法的な紛争となった場合には、会社にとっても大きな負担となるとともに、法的なリスクが伴います。
従業員の私生活上の非違行為に関連して、懲戒処分や解雇についてお悩みの会社様は、ぜひ当事務所にご相談ください。
記事作成弁護士:畠山賢次
記事更新日:2026年7月27日
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