この記事を書いた弁護士

弁護士・木村哲也
青森シティ法律事務所 代表・所長
八戸シティ法律事務所 代表

主な取扱い分野は、労務問題(企業側)、契約書、債権回収、損害賠償、ネット誹謗中傷・風評被害対策・削除、クレーム対応、その他企業法務全般です。八戸市・青森市など青森県内全域の企業・法人様からのご相談・ご依頼への対応実績が多数ございます。

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1 はじめに

企業は、従業員を解雇する際、その従業員に対し、解雇通知書を交付するのが通常です。
この時、解雇理由が複数ある場合でも、解雇通知書には、解雇判断に至る直接のきっかけとなったもの、あるいは最も明確で客観的な裏付けのあるものだけが記載される事例が散見されます。

そして、後日、解雇の有効性が争われるトラブルが発生し、企業の担当者から相談を受けた弁護士が解雇に至る経緯を詳しく聞くと、解雇通知書に記載しなかった解雇理由が語られる事例が少なくありません。
このような場合、解雇通知書に記載しなかった事項について、解雇理由として後出しする主張は認められるかが問題となります。

2 懲戒解雇の場合

(1)解雇当時に認識していなかった事項の追加主張

最高裁判所平成8年9月26日判決は、「懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情のない限り、当該懲戒の理由とされたものでないことが明らかであるから、その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることはできないものというべきである。」と判示しています。

したがって、懲戒解雇の場合、解雇当時に認識しておらず、そのため解雇通知書に記載しなかった事項について、解雇理由として後から追加主張することは、原則として認められないと考えられます。

一方で、追加主張が例外的に認められる「特段の事情」とは、懲戒解雇の理由とされた非違行為と密接に関連する同種の非違行為の場合などを指すと考えられています。
具体的には、一連の横領行為の一部のみが判明し、これのみにより懲戒解雇としたところ、その後の調査により前後の横領行為が判明した場合などが考えられるでしょう。

(2)解雇当時に認識していた事項の追加主張

また、高知地方裁判所令和3年5月21日判決は、解雇理由書に解雇理由として「あなたの職員に対するパワーハラスメント行為(社会福祉法人●●第三者委員会からの報告による。)が下記に該当するため。」(「下記」とは、就業規則の適用条項)と記載して懲戒解雇とした事案において、法人から、第三者委員会がパワハラ認定しなかった言動を解雇理由として追加する主張がなされたのに対し、これらの言動は法人が懲戒解雇時にその存在を認識していたものであると認定しました。

そのうえで、同判決は、「本件解雇通知書の記載からすれば、これらの言動については、いずれも被告法人において懲戒解雇事由に該当する非違行為であると評価していなかったか、あるいは、非違行為であると認識していたとしても、当罰性が乏しいと判断して、懲戒事由として記載しなかったものと解するのが相当であって、これらについて、上記特段の事情があるとも認められない」(「上記特段の事情」とは、前掲の最高裁判所平成8年9月26日判決における「特段の事情」)と判示し、追加主張を退けています。

そして、控訴審判決である高松高等裁判所令和4年5月25日判決も、法人は第三者委員会がパワハラ認定した言動を解雇理由として懲戒解雇を行ったものと認められるから、その懲戒解雇の有効性を検討するにあたり、第三者委員会の報告書に記載のない言動を考慮することはできないと判示し、第一審の判断を支持しました。

したがって、懲戒解雇の場合、解雇当時に認識していながら、解雇通知書に記載しなかった事項について、解雇理由として後から追加主張することは、原則として認められないと考えられます。

(3)例外的に追加主張が認められるケース

一方で、東京高等裁判所平成13年9月12日判決(タクシー会社の事案)は、「懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情のない限り、当該懲戒の理由とされたものでないことが明らかであるから、その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることはできないが、懲戒当時に使用者が認識していた非違行為については、それが、たとえ懲戒解雇の際に告知されなかったとしても、告知された非違行為と実質的に同一性を有し、あるいは同種若しくは同じ類型に属すると認められるもの又は密接な関連性を有するものである場合には、それをもって当該懲戒の有効性を根拠付けることができると解するのが相当である」と判示しました。
そのうえで、同判決は、解雇通知書には解雇理由として平成8年2月27日の職場離脱のみが記載されていたのに対し、同日以前の職場離脱、メーターの不正操作、営業車両の飲酒運転、粗暴な言動等による職場秩序の侵害・業務阻害、営業車両の違法駐車もまた、一体として密接な関連性を有するから、懲戒解雇の有効性を根拠付けることができると判断しました。

なお、同判決は、会社としては、懲戒解雇時に認識していた非違行為の全てを解雇理由とする意思であったが、これが多岐にわたるため、懲戒解雇を最終的に決定する契機となった平成8年2月27日の職場離脱のみを解雇通知書に記載したに過ぎず、解雇理由をこれに限定する趣旨ではなかったと認定しました。
そして、同判決は、「一体として密接な関連性を有する」との判断において、職場離脱、メーターの不正操作、営業車両の飲酒運転、粗暴な言動等による職場秩序の侵害・業務阻害、営業車両の違法駐車という非違行為について、会社が労働組合に対して繰り返し警告し、これを受けて労働組合の副委員長が当該従業員に対して繰り返し忠告を行ってきたという経緯を考慮し、平成8年2月27日の職場離脱および飲酒のうえでの営業車両の運転行為は、他の非違行為ともども当該従業員の勤務態度の劣悪さを示すものであり、労働組合の副委員長からこれを改めるよう忠告を受けてきたものであると評価しました。

したがって、懲戒解雇の場合、解雇当時に認識していながら、解雇通知書に記載しなかった事項についても、解雇通知書に記載した解雇理由と実質的に同一性を有するもの、同種もしくは同じ類型に属するもの、密接な関連性を有するものであれば、後から追加主張することが例外的に認められると考えられます。
しかし、あくまでも例外的なケースであるため、解雇理由の後出しを前提とする懲戒解雇にはリスクがあります。

3 普通解雇の場合

普通解雇の場合、解雇通知書に記載しなかった事項について、解雇当時に認識していたかどうかにかかわらず、解雇理由として後から追加主張することは認められると考えられています。

懲戒解雇の場合と普通解雇の場合とで結論が異なるのは、両者の制度的な性質の違いです。
前掲の最高裁判所平成8年9月26日判決は、解雇理由の後出しを認めない根拠として、「使用者が労働者に対して行う懲戒は、労働者の企業秩序違反行為を理由として、一種の秩序罰を課するものであるから」と説明しました。
懲戒解雇は非違行為に対する懲罰・制裁としての性質を有するところ、懲罰・制裁の対象となる解雇理由を不意打ち的に後出しすることは許されないという考え方です。

これに対し、普通解雇は能力不足や規律違反など雇用契約の継続が困難であることを理由として雇用契約を解消する性質のものであり、普通解雇の有効性は解雇当時の客観的な状況により判断されるべきであると考えられます。
また、普通解雇は懲罰・制裁としての性質を持たないことから、より柔軟な取り扱いがなされていると考えられるのです。

ただし、普通解雇の場合も、解雇通知書に記載しなかった事項を解雇理由として後から追加主張することに、全くリスクがないわけではありません。
追加主張した解雇理由は、どうしても後付けの感が否めず、裁判官から「当時は許していたのではないか?」と見られてしまったり、普通解雇の有効性を根拠付けるものとして十分に考慮してもらえなかったりするリスクがあります。

また、裁判の審理中、解雇通知書に記載しなかった解雇理由を五月雨式に主張するとか、審理の終盤になって唐突に主張し始めるなどすれば、裁判官の心証を悪化させたり、主張すること自体が却下されたりすることもあります。
もし解雇理由の後出しをする場合には、可能な限り審理早期の段階で主張を行うべきであり、追加主張した解雇理由を裏付ける証拠資料も、適時に提出することが求められます。

4 解雇理由証明書を発行した場合

従業員が解雇理由を記載した証明書(解雇理由証明書)を請求した場合、企業は遅滞なくこれを交付しなければならないとされています(労働基準法22条)。
解雇理由証明書は、従業員から請求があった場合に発行する解雇の理由を記載した書面のことであり、従業員に対して解雇する旨の意思表示を通知する解雇通知書とは異なるものです。

解雇理由証明書を発行した場合、普通解雇であっても、解雇理由証明書に記載しなかった事項について、解雇理由として後から追加主張することは認められないとする考え方がありますので、注意が必要です。

広島高等裁判所令和2年2月26日判決は、「労働基準法22条1項が解雇理由証明書の請求について規定したのは、解雇が労働者に大きな不利益を与えるものであることに鑑み、解雇理由を明示することによって不当解雇を抑制するとともに、労働者に当該解雇の効力を争うか否かの判断の便宜を与える趣旨に出たものと解されるから、解雇理由証明書に記載のなかった事由を使用者において解雇理由として主張することは、原則として許されないというべきである。」「もっとも、(中略)上記の立法趣旨に反しないと認められる特段の事情があれば、当該主張は認められるというべきである。」と判示しています。

この裁判例の考え方は、通説的なものではないように見受けられます。
しかし、この裁判例における判示のように、追加主張すること自体が否定されることにはならずとも、裁判官から「解雇理由証明書に記載しなかったということは、解雇理由として重視していなかったからである。」「本当にその理由で解雇したのか?トラブル(裁判や労働審判)になってから用意した後付けの言い訳ではないか?」と見られる可能性があります。
その結果、追加主張した解雇理由は、裁判官から、解雇の有効性の判断において十分に評価してもらえないリスクがあります。

いずれにしても、解雇理由証明書を発行した場合、解雇理由証明書に記載されていない解雇理由を追加主張することには、より重大なリスクがあると考えることができます。

5 リスク回避のために

以上のように、解雇通知書(および解雇理由証明書)に記載しなかった解雇理由については、後から追加主張すること自体が認められなかったり、裁判官から解雇の有効性を判断するにあたり十分に評価してもらえなかったりするリスクがあります。

そのため、従業員を解雇する際には、解雇理由となる事実関係について、事前に十分な調査を実施し、全て把握しておくことが大切です。
そして、解雇理由となる問題行動や注意指導の状況について、しっかりと記録化し、証拠として積み重ねておくことが不可欠です。
そのうえで、解雇通知書(および解雇理由証明書)には、解雇理由について書き落としのないように、網羅的に記載するようにしましょう。

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記事作成弁護士:木村哲也
記事更新日:2026年7月14日

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