1 製造業における残業代請求トラブルとは?

製造業では、長時間労働やサービス残業の常態化が問題となっており、それに伴って、残業代請求トラブルが多く発生しています。

そもそもなぜ、製造業では長時間労働やサービス残業が常態化しているのでしょうか。
主な理由は二つ考えられます。

一つは、余裕のない納期設定や慢性的な人手不足によるものです。
製造工場にはそれぞれの製造・生産能力があり、製造・生産能力を超えた受注がなされれば、そのしわ寄せは、長時間労働という形で労働者へ及びます。
また、下請けの中小企業の立場で余裕のない納期設定を受け入れざるを得ないようなケースでも同様です。
そして、そのような内部の問題以前に、慢性的な人手不足という業界全体の問題もあり、人手不足によって1人が負う仕事量が多くなっていることも、製造業で長時間労働が常態化している理由といえます。

もう一つは、管理監督者という肩書に起因するものです。
労働基準法では、労働時間の上限を1日8時間、週40時間までとし、それを超えて労働させた場合は割増賃金を支払わなければならないと定めています。
一方で、「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)については、深夜手当を除く、残業代や休日手当等の割増賃金の規定が適用されないと規定されています。
製造業の場合、工場長や現場監督者などが管理監督者になり得ますが、実態は「名ばかり管理職」であるケースも少なくなく、結果的に多くの企業でサービス残業になっていることがあります。

これらの理由により、長時間労働やサービス残業が常態化し、本来支払われるべき残業代が支払われずに、残業代請求トラブルが多く発生しているわけです。

製造業における残業代請求トラブルとしては、ほかに、固定残業代を導入していることを理由に残業代を支払っていないことを発端として、トラブルに発展しているケースもあります。

2 製造業における残業代トラブルの具体例

(1)名ばかり管理職によるトラブル

名ばかり管理職によるトラブルについては、前記のとおり、工場長など、企業内で管理職の地位にある労働者全員が、必ずしも労働基準法上の「管理監督者」に当てはまるとは言えないことがトラブルの原因となっています。

管理監督者として認められるのは、以下の要件を満たしている場合です。

①労働時間や休日、休憩に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容、権限を有している
②実際の勤務のあり方が、労働時間や休憩、休日の規制になじまない
③賃金などについて、その地位にふさわしい待遇がなされている

要件を見る限り、管理監督者として認められるハードルは比較的高いといえます。
そして、管理監督者ということを理由に残業代の支払いをしていなかった場合、その者に対して一般の労働者と同じように労務管理して、賃金にも差がないような場合は、管理監督者として認められず、残業代を支払わなければならなくなります。

(2)就業規則の不備

前記で述べたとおり、固定残業代を導入していることを理由に残業代を支払っていないケースがあります。
ここでも、固定残業代が認められるのは、以下の要件を満たしている場合です。

①固定残業代と残業時間を明確に記載しなければならない
金額と時間を明確に記載する必要があり、例えば「月給〇〇万円(固定残業〇〇時間分の〇万円を含む)」といった表記が必要になってきます。
また、固定残業時間の算定根拠も必要です。
②従業員へ周知しなければならない
就業規則(賃金規程)にその手当が固定残業代として支払われる旨の記載、給与明細、雇用契約書に何時間分の固定残業代が支払われているかの記載が必要になります。
すなわち、固定残業代が認められるためには、就業規則に以下の点が必ず規定されていなければなりません。
〇固定残業代の金額(計算方法)
〇固定残業の労働時間数
〇固定残業時間を超えた残業の取り扱い(超過部分の残業代を支給する旨の規定)
〇固定残業代が深夜割増残業代や休日割増残業代も含むのであれば、その取り扱い

このように、固定残業代を導入していることを理由に残業代を支払わらないという取り扱いが認められるためには、就業規則が整備されている必要があります。
逆に言えば、就業規則に不備があることによって、残業代トラブルに発展することになります。

(3)タイムカードと実労働時間の不一致

製造業では、慢性的な人手不足を背景に、工場の製造・生産能力や人員数に見合わない納期が設定されて長時間労働が常態化している結果、早出・残業の際に打刻しない文化が形成されてしまっていることがあります。
いわゆるサービス残業、隠れ残業が常態化しているケースです。
打刻可能な時間外労働時間の上限を設けるなど、企業が従業員に対して不正に働きかけて、労働時間を短く打刻させているケースもあります。

このような企業では、タイムカードと実労働時間の不一致が発生します。
そしてこのことが、残業代トラブルを発生させます。

3 残業代請求トラブルを放置するリスク

(1)高額な過去分の請求リスク

残業代は、最大3年分遡って請求される可能性があります。
たとえ日々発生した残業代は少額であったとしても、数年分となれば高額となるケースは少なくありません。

また、裁判において残業代を請求する際、残業代と同額の付加金という金銭も併せて請求されることがあります。
さらに、従業員がすでに退職していた場合には、未払い残業代について年14.6%の割合で遅延損害金が発生します。
これらの付加金・遅延損害金も加えて請求された場合、請求額はかなり高額になります。

(2)社内への波及と風評被害

一部の従業員から残業代請求がなされた場合には、社内への波及に注意しなければなりません。
残業代請求が認められたとの情報が社内に拡がれば、他の従業員からも相次いで残業代請求がなされる可能性があるためです。
多くの従業員からまとめて残業代請求がなされれば、支払いができず、企業の存続を左右する問題にまで発展するかもしれません。
また、残業代請求に対する企業の対応によっては、他の従業員の士気が低下したり退職者が発生したりするリスクもあります。

さらに、長時間労働が常態化していたり、早出・残業の際に打刻しないというサービス残業・隠れ残業の文化が形成されて残業代の不払いが常態化していたりする場合には、SNSなどで企業名や概要をインターネット上に拡散されることも起こりえます。
そうなると、全国規模で、いわゆる「ブラック企業」と非難される可能性があり、企業の死活問題となりかねません。

(3)労基署の調査・是正勧告

労働基準監督署(労基署)は、事業所が労働関係の法令を守っているかどうかを監督する立場にあり、残業代の未払いについて従業員が労基署へ通報すると、企業に対して労基署が調査に入る可能性が高いです。
調査の結果問題があると判断されれば、是正勧告や改善指導がなされるほか、この是正勧告や改善指導に従わなければ、最悪の場合検察庁に送致され起訴される可能性があります。

4 残業代請求対応を弁護士に依頼するメリット

製造業における残業代請求において、次のようなことが論点となります。
〇管理職なので残業代の支払いは不要ではないか
〇固定残業代を支払っているので残業代の支払いは不要ではないか
〇タイムカードで把握された労働時間と異なる労働時間で残業代を請求されている

いずれの論点も、正確な法的知識と理解に基づいて、主張を行っていく必要があります。
この点で、対応を弁護士に依頼することで、従業員側からの残業代請求に対して、正確な法的知識に基づいた交渉、反論を行い、早期解決に導くことが可能となります。

また、弁護士が交渉をすることで請求額の大幅な減額が可能になることがあります。
裁判になってからではこのような減額が難しいケースも多いため、残業代を請求されたら、まずは早急に弁護士にご相談いただくことが重要です。
交渉での解決を目指すことが企業にメリットになるケースが多いですが、中には徹底的に裁判で争ったほうが良いケースもあります。
この点で、弁護士に早期に相談することで、どちらのケースかの見極めをして適切な方針をたてることができます。

加えて、解決までの期間が長引くと、残業代請求の事実が社内(他の従業員)に波及するおそれがあります。
弁護士に依頼すれば、できる限り早く口外禁止条項を含んだ示談あるいは裁判上の和解で解決することで問題の拡大を防ぐことができます。

そして、労基署の調査については、調査を待つのではなく、調査に先だって弁護士に相談し、改善すべき点は改善する姿勢を示すことにより、円満に解決し、また、調査の一部を回避することも可能です。

さらに、弁護士は、残業代請求の対応(交渉、労働審判、裁判)だけではなく、再発を防ぐための就業規則のチェック・改正、労働時間把握体制の整備・改善に関して、法的な見地から適切なアドバイスをすることができます。

5 残業代に関するお悩みは当事務所にご相談ください

弁護士に残業代請求への対応を依頼する企業側のメリットは、残業代請求への対応においてだけでなく、再発を防ぐための予防(就業規則のチェック・改正、労働時間把握体制の整備・改善)においてもあります。

当事務所では、残業代請求を含む労務問題において、企業側に注力した法律事務所として、多くの対応を行っております。
製造業における残業代に関するお悩みは、ぜひ当事務所にご相談ください。

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