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この記事を書いた弁護士

弁護士木村哲也

弁護士・木村哲也 
八戸シティ法律事務所 
代表弁護士

主な取扱い分野は、労務問題(企業側)、契約書、債権回収、損害賠償、ネット誹謗中傷・風評被害対策・削除、クレーム対応、その他企業法務全般です。八戸市・青森市など青森県内全域の企業・法人様からのご相談・ご依頼への対応実績が多数ございます。

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「裁判官は世間知らず」という笑止の論

田舎の年配の社長さんが口にする迷言のひとつに「裁判官は世間知らず」というものがあります。
私も、田舎の年配の社長さんとの会話で、このような言葉が発せられる場面に少なからず遭遇してきました。
一方で、おおむね50歳代以下の比較的若年層の社長さんや2代目・3代目の跡取り社長さんについては、教育水準が比較的高く、あるいは、純粋な性格の人が比較的多いように思われ、このような言葉を発することは比較的少ないように感じられます。
この種類の誹謗中傷は、常に下から上に向けられる非常につまらないものですが、今回、「裁判官は世間知らず」という言説に関する私なりの見解を述べたいと思います。

思うに、「裁判官は世間知らず」と言いたがる社長さんは、ご自身の周りにも、ご子息・ご親族の周りにも、裁判官になるような人物がいないからこそ、このような言葉を平気で口にすることができるのでしょう。
そして、「裁判官は世間知らず」などと放言した対話の相手は、実は裁判官をしている人間と刎頸の友であるという可能性もあるところ、そのような恐れがまったく念頭に置かれておらず、非常に軽率な発言であると言わざるを得ません。
賢くて立派な社長さんは、少なくとも私の前では、「裁判官は世間知らず」などという愚かな発言をしないものです。
あるいは、ご自身が経験した裁判で意に沿わない訴訟指揮や判決を受けたという一事象をもって、「裁判官は世間知らず」という考えに至ったのかもしれませんが、発想のレベルが低すぎて話になりません。
または、ご自身がこれまでに非常に多くの苦労をして現在の地位を築かれたのであり、裁判官など小僧のように見えて「裁判官は世間知らず」と言いたくなるのかもしれませんが、特定の職業に就く人一般を指して「世間知らず」というレッテルを貼るような軽薄な言動は、苦労の末に高い地位を得た成功者の振る舞いとして、いささか残念なものと言うほかありません。
他にも、「裁判官は机にかじりついてばかりで・・・」などという薄っぺらな議論を好む年配の社長さんをお見かけすることがありますが、もう立派なお歳なのですから、そろそろ高学歴エリートへのコンプレックスはお捨てになられた方がよろしいと存じます。

そして、「裁判官は世間知らず」などと蒙昧な発言をする社長さんが言う「世間」とは一体何なのでしょうか?
裁判官という特定の職業に就く人一般を指して「世間知らず」というレッテルを貼るような考えの人が語る「世間」ですから、大して高尚なものを指していないことは明らかです。
田舎の年配の社長さん同士が赤提灯で管を巻くことでしょうか?
場末のスナックで年配のママとデュエットをすることでしょうか?
残念ながら、そのような「世間」を知っているかどうかが裁判官の仕事の質に影響を及ぼすことはあり得ません。

あるいは、「裁判官は我々の業界・業種の実情や常識をまったく知らない」と言いたいのでしょうか?
当たり前です。
では、「裁判官は世間知らず」と言いたがる社長さんは、果たして裁判所・裁判官の実情や常識をどの程度把握していらっしゃるのでしょうか?
では、「裁判官は世間知らず」と言いたがる社長さんは、果たして世の中のあらゆる業界・業種の実情や常識を網羅的に理解していらっしゃるのでしょうか?(もちろん、ちょっと聞きかじった雑学・豆知識のレベルではなく、判決の基礎とできるほどの確実な事実として)
ほとんどの社長さんがある程度詳しくご存知なのは、せいぜいご自身の身の回りの業界・業種くらいなものではないでしょうか?
裁判官とて、ほとんどの社長さんと同様に、特定の業界・業種に属する人間であるに過ぎず、他の業界・業種の実情・常識に明るくないのが当たり前であるということを、どうぞお忘れなきように。
そして、裁判官が貴社の業界・業種の実情や常識を十分に把握しているわけではないからこそ、弁護士を通じて裁判官へ丁寧に主張・立証していく必要があるのです。
念のために申し上げますが、弁護士とて同様に他の業界・業種の実情や常識を事細かに知っているわけではありませんので、十分にコミュニケーションを取って理解を深めていく必要があります。
そして、裁判官の理解・判断を助けるための仕組みとして、裁判の審理において各業界・業種の専門委員を関与させるなどの制度も存在します。

また、そもそも論として、業界・業種の実情や常識という次元の知識を知っているか、知らないかという基準でマウントを取ろうという発想自体、裁判官のごとき知識階級と相対したときに、失笑を買うものと覚えておいていただくことをお勧めいたします。
その次元の知識であれば、弁護士を通じて法廷で分かりやすく主張・立証してもらうとか、専門委員の意見を仰ぐなどすれば足りることであり、そのような知識と法令を前提としてどのようなジャッジを行うかという論理的思考にこそ裁判官の真価があるのです。
裁判官は物知りおじさんではなく、物知りおじさんである必要もありません(「物知りおじさん」は男性を想定した表記ですが、「物知りおばさん」と書くと女性の人権団体からお叱りを受ける可能性があるため、男性を想定した上記の表記とさせていただいております)。
特定の業界・業種ネタを知っているか、知らないかのレベルを基準とする知識マウンティングは、真の知的エリートからすれば非常に痛々しいことです。
今時、知識そのものの価値は限りなくゼロに近いのです。
そのレベルの知識は適切に説明を受ければ済む話であり、知的労働とはその先の営みです。
裁判官の職責の本質を知り、謙虚になることが必要です。

なお、青い鳥判決(名古屋地方裁判所岡崎支部平成3年9月20日判決)などの風変わりな判決を指して裁判官一般のことのように非難を加える人もいますが、特定の裁判官の資質や特定の判決の是非の問題であるため、ここでは言及しません。
もちろん貴社の業界・業種にも、一風変わった人物や批判される仕事というものは存在しますよね?
そして、その発生率は、きっと裁判官よりも高いのではないでしょうか?
ここで、この話題に関連して、裁判官が下した判決への批判の在り方についても、少し触れておきたいと思います。
およそ世の中を見回しますと、裁判官が下した判決の結論や判示(理由部分)の一部を切り取って、蒙昧な批判を加える人たちの姿が散見されますが、あまりスマートなものとは言えません。
このような批判は、いわゆるポジショントークの類のものであるとか、判断の基礎となる事実関係を聞きかじり程度でしか把握せず、裁判当事者の主張の全趣旨および全証拠を見ることもなく(裁判の記録は、一部の例外を除いて、誰でも裁判所に行けば閲覧することができます)、適用される法令に関する相応の知見を有するものでもなく、ただただワイドショーレベルの情報に踊らされているなど、真面目に取り合うのが馬鹿らしくなるような議論であることがほとんどです。
もし、ご自身が感情的に受け入れられない判決の話題になったとしても、自信満々で声高に批判を加えるのではなく、「裁判の経過をすべて把握しているわけではなく、法令についても十分に理解しているわけではないため、判決の結論だけを見て意見を申し述べることは不適切と存じますが、裁判当事者のことを大変心配し、心を痛めている次第でございます」などと述べておくことが、知的で謙虚な大人の対応ではないでしょうか。

要するに、「世間知らず」とは、しばしば、インテリを攻撃する際に使用されるワードですが、攻撃される側から鼻で笑われる要素しかないため、口にすることを控えるのが賢明です。

さて、本コラムでは、裁判官が本当に世間知らずであるかどうかの結論については、あえて言及しないこととさせていただきます。
裁判官が世間知らずであるか否かについては、数多くの裁判官との公私にわたる交流の中で、各自の曇りなき眼をもって判断されるべき事柄であるからです。
この点、「裁判官は世間知らず」と放言する人間が属するコミュニティには、裁判官は一人も存在しないものと強く推認されるため、このような真っ当な判断を行うことはまったく不可能であると言わざるを得ないでしょう。
しかし、そうであるならば、裁判官に関して物知り顔で「世間知らず」と批評することなどしないのが知性というものです。

以上、私は「裁判官は世間知らず」と言いたがるような精神の社長さんではなく、謙虚で実直な社長さんと長くお付き合いしたいと考えていることから、今回のコラムを執筆いたしました。

記事作成弁護士:木村哲也
記事更新日:2019年11月24日

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